腫瘍内科医のひとりごと 81 「ホスピスは安心して最期を過ごせない⁈」

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2017年9月
更新:2017年9月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

「いまの治療が効かなくなったらもう治療法はありません。そのときは3カ月の命と思ってください。ホスピスを希望されるなら、今のうちに探したほうがよいでしょう。紹介状は書きます」と担当医からは言われました。

Pさん(58歳、独身男性、独居)は食道がんが進行し、Zがん専門病院の外来で抗がん薬治療を行っていました。

身体の苦痛はなかったのですが、食事量は少なく、だんだん体力が衰えてきており、最期をひとりで暮らすのは無理と考え、ホスピスを探してみることにしました。

自分が思っているホスピスと実際のズレ

インターネットでA病院の緩和病棟をみると、「在宅療養を困難とする身体およびこころの症状を緩和することを目的とした病棟です」とあり、「限られた病床を有効に利用していただくために、以下の入院基準を設けています」

そして入院の条件に、「症状が軽減した場合には、退院または転院となる旨に同意していること」とありました。

次にBホスピスを見ました。

「痛みや苦しみ、悩みを出来る限り和らげ、少しでもご自分らしい日々を送ることができるよう支援いたします。症状が安定した場合は在宅療養をお勧めします。退院後は緩和ケア外来に通院したり、訪問看護ステーションや地域のクリニックと協力して在宅ケアを受けることができます」

D病院に電話で聞いてみますと、「がん患者の苦痛を緩和する施設です。入院が3カ月以上になりますと、退院か転院していただきます。入院中に亡くなる方の看取りはしますが、本来は看取りをする施設ではありません」とのことでした。

Pさんは、あと3カ月の命と言われて、その3カ月はホスピスで、苦痛がでれば対応してもらい、平穏に、最後まで過ごしたいと思っていたのですが、どうも自分の考えとは違っているように思いました。

在宅となると、訪問看護、往診の医師が来てくれても、ずっと誰かが居てくれるわけではない。自分はひとりなのだ。今は、痛みも苦しくもないが、だんだん動けなくなってきたとき、体力がない自分はひとりでどうするのだろう?

ホスピスは人生の最期を安心して過ごせるように

不安になったPさんは通院中のZ病院の相談室を訪ねると、「最近はホスピスも長く入院する方は少ないようです。入院期間が1カ月以上になると診療報酬が減り、病院の収益も減るのです」

「在宅では無理ですか? いつでも連絡がとれるようコールを付けることもできます。24時間ヘルパーというのもありますよ」

「ホスピスではなく最期を診てくれる病院や、有床診療所なども検討したらいかがですか」とのことでした。

ある緩和関係の医師は、「がん終末期の患者さんは、亡くなる数日前まである程度ご自身のことができている方が多く、在宅は可能と思います。また80%の方は自宅での最期を希望されているのです」と述べています。

しかし、身体状況、心の問題、そして家族環境は皆さん個々で違っています。核家族の時代を経て、いまや独居の方がとても多い時代となってきました。

ホスピスでは、きっと患者さんそれぞれの希望に沿った対応がなされていると思うし、また、長期の入院を制限しているのは一部のホスピスだけとは思いますが、在宅に返すだけではなく、がん人生の最期を安心して過ごせるように、ぜひお願いしたい。

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