腫瘍内科医のひとりごと 83 「エビデンスがかえって足かせ⁈」

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
(2017年11月)

  
ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

私のセカンドオピニオン外来に来られたKさん(53歳男性 大腸がん)のことです。

Kさんはこれまで2年間、Hがん専門病院で外来通院治療を受けてきました。しかし、今回A腫瘍内科医から、「再発したがんは、抗がん薬で治癒(ちゆ)することはないと、治療開始前に話したはずです。腹腔内のリンパ節は今回のCTでは効いていないようです。治療は中止します」と言われ、緩和ケアの医師を紹介されたそうです。

そして紹介された緩和ケアG医師の診察で、Kさんは、「はっきりとは言われていないが、G医師はどうにかして治療を諦めさせたいと思っているのがありあり」と感じたのだそうです。

「自分はいま治療を諦めることは出来ない。たとえ、効果がなくとも、エビデンス(科学的根拠)がなくとも、医学的に意味があってもなくとも、がんに対してなにか手段がないか、一緒に考えて欲しいのです。G医師とのこのギャップはどうしようもない。もし、痛みがきたらお世話になりたいが、それまでは緩和ケア科を受診したくない」と言われました。

G医師は、「あなたらしく生きることを支える」と言われたそうです。

Kさんは「治療を諦めて、私らしく生きることは考えられない。生きる道を探りたい。生きる希望のために治療法がないかを探りたい。私の話を聞いてわかって欲しい。自分の思いを叶えてくれる医師を探したいと思って来ました」と言われます。

私はKさんに外科医、放射線科医とも相談してみることを約束して、1週間後、再度相談にのることの話をしました。

生きるを支えてくれる医師

Kさんはその後、放射線治療科の診察を受け、腹腔内リンパ節に対して放射線治療を行うこととなりました。

幸い、内服の抗がん薬と放射線治療でがんは縮小し、その後の治療経過も良好です。

確かに、A医師の言われるように再発がんの治癒は難しいが、転移の状況、身体の状態等それぞれの患者によって違う。抗がん薬だけでがんが消えなくとも、放射線治療、手術などで、希(まれ)かも知れないが、がんが消えた方もおられるのだ。

治癒した患者数はごく少ないことから、統計学上エビデンスとしては出てこない。そのため、標準治療には記載されてこないのだが、がん治療の臨床が長い医師なら経験があるはずだ。

再発がんで抗がん薬が効かなかった場合、決まり切ったように、規定路線のように緩和医師に移され、治療を諦めさせられる。

もちろんいかがわしい治療法は勧めないが、がんの薬物治療後(とくに効果があった場合)、いろいろと工夫して、再度、手術や放射線治療等が適応にならないのかを考えて欲しい。

「患者本位のがん医療の実現」と言いながら、標準治療から緩和医療へ、ガイドライン通りかもしれないが、それでほとんど間違いではないのかもしれないが、患者は「何か治療法がないか」求めるのは当然なのだ。1人ひとりの命がかかっている。

ガイドラインはエビデンス最優先、それはわかるが、現実の医療はエビデンスだけではない。エビデンスがかえって足かせになっていないか、最後まで闘ってくれる、生きるを支えてくれる医師を望む患者は多いのである。

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