腫瘍内科医のひとりごと 85 「自分らしく生きること」とは?

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2018年1月
更新:2018年1月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

2017年度から6年間の第3期がん対策推進基本計画が、去年(2017年)10月に示されています。このなかで、ゲノム医療の推進をうたっており、がんの遺伝情報等により個々の患者の最適な治療法の選択がもっと進むものと思います。

がんの治療は長年、手術・放射線治療・薬物療法(抗がん薬)の3本柱とされてきましたが、ここ1、2年でこれに免疫療法が加わって4本柱になりました。

先日、ある病院で医師たちがカルテを見ながら、がん患者の治療法について検討していました。

このとき、免疫治療薬のニボルマブを5回投与された肺がん患者(67歳女性)のCT画像がでてきました。左肺へのがん転移は最大径4cmほどの腫瘤でしたが、これがほとんど消えているのです。これほど著効したのを見たのは、私は初めてでした。このような効果が得られた患者はまだ少ないのですが、薬物でがんが治る時代が近いのかもしれないと思いました。

また、この推進基本計画では15歳から39歳(AYA世代)のがん患者は、多くの問題を抱えていることを指摘しています。この世代は学業の継続、就職、結婚、出産、子育てなど大変な時期でもあります。診療、相談等の支援において、この世代は恵まれていないことから、ぜひこれらの整備を急いで欲しいと思います。

がん対策推進基本計画の全体目標は高邁だが……

先日、がんに関係したある会合で、医療体制の話で、病院での早期退院、在院日数短縮、「住み慣れた環境で」など、在宅医療に向けての意見が多く出ました。2025年には後期高齢者数は2,100万人を超えると言われ、膨らむ医療費、財政面から在宅へのシフトはやむにやまれぬ対応だとの意見でした。

一方では、独居の方が増え、2人世帯でも老々介護が多くなっています。訪問看護師、往診の医師が来てくれても、ヘルパーさんが来てくれても、進行したがんで、動けない独居の患者を在宅で24時間だれが世話をするのだろうかとの心配もあります。

基本計画の全体目標のなかで、「がん患者が、いつでも、どこに居ても、尊厳を持って安心して生活し、自分らしく生きることのできる地域共生社会を実現する」とあります。「自分らしく生きること」とは? と考えてしまうこともあります。無理のない在宅であって欲しいと思います。

会合が終わって、家に帰ったら患者会の通信が届いていました。

「人は、死にたい気持ちを抱える時、絶望的な孤独の中にいます。その時に、あたたかな気持ちでそっとそばに居てくれる存在は、抱えきれない苦悩で凍りついた心をやわらかく溶かしてくれる木漏れ日のようなものです。『心の居場所』づくりとは、私たちの心の底からやさしさを提供することにほかなりません」竹本了悟(がん患者・家族語らいの会通信 No186 2017年9月9日発行より)とありました。

「心の居場所づくり」という言葉にとても魅かれました。

2018年は犬年です。犬は人の吐く息や尿で、がんを嗅ぎわけることが出来る能力があるというのです。一流医学雑誌「ランセット」に載った話で、すでに検討に入った施設があると聞きました。愛犬ががんを探知してくれるようになってくれたらすごいですね。

今年も、一生懸命応援いたしております。

ニボルマブ=商品名オプジーボ

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート4月 掲載記事更新!