腫瘍内科医のひとりごと 90 「がん専門医に望むもの」

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
(2018年6月)

  
ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

Sさん(45歳、男性、会社員)は、G病院外科で大腸がんの手術後、両側肺に転移があり、抗がん薬を併用したいくつかの治療法を2年間受けてきました。

手術のときから経験豊富なT外科医(60歳、専門医の資格は持っていない)が担当でした。T医師は、とくに薬の副作用など気を配ってくれ、何かと一緒に悩んでくれるので、Sさんはとても有難く思っておりました。

しかし、最近は再び腫瘍マーカーが上昇してきました。先日のCT画像で、転移が少し大きくなった感じがあり、T医師から「標準的な治療では、抑えられなくなってきているかも知れません」と告げられました。

Sさんは治療の連続でしたが、家族や会社の仕事のことも考えて、まだまだ頑張ってがんと闘いたいと思いました。

Sさんは、T医師に「何かよい治療法はないのか、抗がん薬の専門医に聞いてみたいので、診療情報提供書を書いていただけますか?」とお願いしてみました。

T医師は「よろしいですよ。来週までに書いておきます」と、快諾してくれました。

治療を受けたい患者を切り捨てる〝がん専門医〟⁉︎

Sさんはネットで調べて、Yがん拠点病院腫瘍内科のがん専門医のセカンドオピニオンを受ける予約をしました。

Sさんが考えていた〝専門医〟とは、いわゆる〝神の手を持つ医師〟や〝スーパードクター〟とまではいかなくとも、患者がいろいろ困難な状況でも、〝工夫し、治療法を考えてくれる医師〟のことで、場合によっては〝標準治療を超えて治療法を考えてくれる医師〟をイメージしていました。

Sさんが「専門医の資格等について」を調べていたら、専門医とは「その領域の専門・研修を受け、患者さんから信頼される標準的な医療を提供できる医師」と記載されていました。

Y病院で対応した腫瘍内科の専門医師は、診療情報提供書とSさんからの話を聞いた後、「これまでしっかり標準治療がされていますよ。いまはSさんに合う新薬はないし、さらに腫瘍が大きくなったら緩和でしょう。よろしければ緩和ケア科を紹介しますよ」との返事でした。

Sさんは「これからも治療を受けたい」こと、「Y病院に通院しても構わない」ことなども話してみましたが、「そろそろ治療を止めて、自分らしく生きることを考えたらどうですか」との答えでした。

Sさんは「治療を止めて、迫ってくる死を前にして、自分らしく生きるなんて出来ない」と思いました。

Sさんからその結果を聞いて、G病院のT医師は思いました。

「標準治療、そして専門医というのは、多くの患者に幸せをもたらすのだが、治療を受けたい患者を切り捨てることもあるようだ。専門医であればこそ、せめて患者と一緒に悩んで考えて欲しかった。標準治療が効かなくなった患者を、どうしたら救えるか? 新薬がなければ、新しいエビデンス(科学的根拠)を作るため、いまの薬や放射線治療などを工夫した新たな臨床試験、ゆくゆくはそれが標準治療になって患者を救えることになると思うのだが、いまはこれもSさんに合う臨床試験はないのだろうか」

T医師とSさんは一緒に悩み、これまでの治療を振り返って、次の治療は、進行を抑えてくれる可能性が残る、2年前に行った治療法を選択肢の1つと考えたそうです。

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