腫瘍内科医のひとりごと 92 「がん」という言葉

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2018年8月
更新:2018年8月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

内科外来診療の日、職場の健康診断で異常を指摘された方2人が初診として来られました。

Oさん(65歳、男性、会社非常勤再雇用)は、とても不安そうな顔でした。

「人間ドックでPSA(前立腺特異抗原)が高いと言われました。前立腺がんでしょうか?」

私はPSA再検査後、検査結果を添えて、Sがん拠点病院の泌尿器科を紹介しました。

すると、Oさんは2カ月後に戻ってこられました。この間に、S病院ではCT、MRI検査後に、前立腺の生検が行われ、10個の検体のうち、2個にがんが見つかった。

その後、骨シンチの検査で骨転移はなく、全体の所見から無治療で経過をみることを勧められました。

がんが早期であった場合、手術しても、放射線治療しても、何もしないでいる場合の10年生存率は変わらないという外国のデータもあると言うのです。PSA監視療法といって、とくに治療せずに定期的にPSA検査などで経過をみる、となりました。手術した場合、身体的負担と、尿漏れなどの副作用が起こることもあるといいます。

「きっと、10年は大丈夫でしょう」とも言われたようでした。

ところが、Oさんが言われるのには「先生、私は、ずっとずっとがんを持って生きていくのでしょうか? 心が苦しい気がします。食べて悪いものとか、がんを消す何か方法はあるでしょうか?」と、とても不安は消えていなかったのです。

〝がん〟は今でも別格

もうひとりのWさん(45歳、男性、会社員、トラック運転手)は、会社の健診結果「肥満、糖尿病、高脂血症、肝機能障害・要受診」として来られました。

なんと、健診では昨年、一昨年と同じ指摘を受けていながら、病院を受診していませんでした。

「糖尿病が悪化していて、このままでは死んじゃうよ。糖尿病の専門医を紹介するから、そこで診てもらって下さい。入院治療が必要かもしれない」と話したら、Wさんは「今日は時間がないので、また来ますから、薬だけ下さい」と、あまり表情は変わらなかったのです。

私は、「肝機能の異常もあり、腹部超音波検査も行います。糖尿病の場合、膵臓がんが隠れている方もおられます」と話すと、「ぜひ、膵臓がんの検査をして下さい」と言われるのです。

幸い膵臓がんは認めませんでした。結局、糖尿病科を紹介し、入院となりました。

患者は〝がん〟と言われたことと、〝糖尿病〟と言われたのとではまったく違う。

たとえ糖尿病で「このままでは死んじゃうよ」と言われても、少しもピンときていない感じなのです。それが、がんの場合は、きっと10年、このまま様子みていても大丈夫と言われても、「がんを持ったままですか?」と不安顔なのだ。

がんイコール死、そしてがんは苦しむのだとのイメージは根強い。年間100万人を超える方が、がんの診断を受けています。しかし、がんを克服し、働き、元気に生活されている方はたくさんおられるのです。

国会議員の中には「がん患者は働かなくていい」と言ったり、受動喫煙対策では国の委員会に参考人として招かれた肺がん患者に、「いい加減にしろ!」とやじることがあったりで、悲しさを通り越しています。

 

全国縦断がんサバイバー支援ウォーク 日本対がん協会の会長、垣添忠生先生(77歳)は、今年(2018年)2月から、がん患者支援を訴えるために、3,500㎞の全国縦断がんサバイバー支援ウォーク(九州がんセンターを2月5日にスタート、全国がんセンター協議会加盟の32病院を訪問。北海道がんセンターに7月23日にゴール)を行っています。

全国縦断がんサバイバー支援ウォーク中の
日本対がん協会会長の垣添忠生さん

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