腫瘍内科医のひとりごと 94 「スマホ時代の納得治療」

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2018年10月
更新:2018年10月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

この2年ほど前からWさん(48歳、花屋)の傍には常にスマホがあり、新聞は読まなくとも、1日10回以上もスマホを見る生活になりました。

あるとき、下痢と腹痛があり、近所のA内科医院を受診しました。A医師には何でもでも相談し、最も信頼していました。

腹部超音波検査で、「膵臓の尾っぽに、瘤(こぶ)がある。K病院、外科のH先生を紹介します」と言われ、Wさんは言葉が出ないほど驚きました。

スマホで調べると、K病院はがん拠点病院で、H医師は膵臓がんが専門のようでした。

「自分はきっと膵臓がんだろう。もうだめか」と思いながらも、2日後にK病院を受診しました。

すぐに造影CT検査が行われ、3時間後にH医師から説明がありました。

H医師「膵尾部(すいびぶ)がんと思います。左の腎臓にも少しかかっています。でも、がんは手術で取れる可能性が高いと思います。外来で、抗がん薬治療を3回ほど行ってから手術がいいと思います」

Wさんは、誠実そうなH医師に「よろしくお願いいたします」と返事をし、抗がん薬と手術の説明書をもらって帰りました。

「膵尾部がん」とはっきり言われたWさんは、数日は食事が摂れないほど気落ちしていました。それでも、入院中の仕事を奥さんに引き継いでもらうために、業者の手配や、帳簿などを教えて過ごしました。

しかし、気がつくと手元のスマホで膵臓がんに関するところを1日に何回も見ていました。

「抗がん薬は無意味だ」「手術をしても意味がない」等々、悪い情報がたくさん出てきましたが、「信頼するA医師が紹介してくれたH医師を信じる」そう思うことにしました。

医師への信頼も〝納得〟の要素

外来で約1カ月抗がん薬治療の後、手術となり、全6時間もかかりました。

H医師は、「肉眼では、がんはすべて取れました。がんが進んでいた左の腎臓も取りました。体力が回復したら、再発予防のため抗がん薬治療を行います」と笑顔で話してくれました。

手術後の経過も順調で、10日後退院となりました。

近所のA医師は、とても喜んでくれました。

Wさんは「ありがとうございました。でも、また抗がん薬治療です。今度は腎臓が片方しかありません。薬の量はどうなるのでしょうか? もし、量を減らしたら再発のリスクが高くなるのではないかと、とても心配です。たくさんスマホで調べましたが、どれが正しいのかわかりません」

A医師は、「すべてを納得して治療を受けることも大事ですが、薬の量などは、経験の豊富なH医師に全面的に任せなさい。スマホで調べるのは止めなさい。あなたが混乱するだけです。友人の精神科のB教授は、ご自分が抗がん薬を受けるとき、量などはすべて主治医に任せました。あなたはH医師を信頼しているのでしょう?」と言われました。

現代は「お任せします」というのではなく、「患者が全てを知り、理解し、納得して治療を受ける」、これを真のインフォームド・コンセントとしている。

医師は一生懸命説明し、医学に素人の患者は、たくさんのことを知らされ、理解しようとする。それを繰り返すのだが、患者がすべてを理解し、すべて納得できて治療を受けているのか? 「信頼」で納得している場合も多々あると思うのです。

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