腫瘍内科医のひとりごと 96 患者の想い・医師の想い

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2018年12月
更新:2019年7月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

Sさん(45歳男性、スーパーの支店長)は、胃がん手術1年後に、腹腔内のリンパ節に再発し、抗がん薬の点滴と内服治療を行った。約半年でリンパ節転移は消失し、抗がん薬治療は内服のみとなった。それから2年間全くも再発なく、内服治療も中止することになった。

私はこれまでの2週に1回の外来診察を、「3カ月に一度にしよう」と提案しました。きっとSさんも喜んでくれると思ったのです。ところが「これまで通り2週間に一度通院したい」と言われる。「そんなに何回も診察も検査も必要ない」と話したら、「先生の顔を見ないで3カ月我慢していなければならないのですか? 先生が離れていくみたいで不安です」と言われるのだ。

 

医師は一緒に悩み、歩いてくれるか

患者と医師の立場は最初から違っている現実がある。

患者はがんと診断されると、時々死を頭に浮かべ(その必要がない場合でも)、人生設計を変えなければならないかもしれないのに、医師自身にとって目の前の患者は、自分が担当する数十人の患者のうちの1人なのである。

時間を取り、たくさん説明し、質問も受け、治療内容を十分理解していただいた、インフォーム・ドコンセントがしっかり行われていたと医師が思っても、患者の心の中の想いは1人ひとりが違うのです。

例えば、手術を前にして、患者は「お任せします」と言った。なかには「先生に命預けます。どうなっても文句は言いません」とまで言われる患者がいる。

しかし、それは「手術がうまくいくようにお願いします」と言っている訳で、言われた通り「どうなっても文句は言わない」ということではない。

患者の頭の中では、「良い結果」を想定しての言葉なのである。

患者と医師が対等と言われるが、現実にはなかなか同じとはいかないことも多い。

治療法について、セカンドオピニオンとして他院に相談したいが、「担当医師との関係が悪くなるのではないか」と心配される患者は少なくない。逆に医師から「セカンドオピニオンならいつでも紹介状書きますよ」と言ってくれ、患者と同じ立場になろうと努力してくれる医師もいる。

セカンドオピニオンは患者の権利である。実際にがんの拠点病院ではセカンドオピニオンを奨励している。セカンドオピニオンに出した件数、受けた件数はそれぞれ病院の評価にもつながるのである。「セカンドオピニオンに行くことを嫌がる医師」は、ほとんどいないと考えて良いと思う。

抗がん薬や最近の免疫チェックポイント阻害薬でも確率は低いのだが、副作用で重篤(じゅうとく)となる場合がある。事前にその副作用について説明されていても、例えば、肺障害が起こった場合は、患者も医師もまさかと仰天する。ときには急激に呼吸が苦しくなり、CT画像では両側肺が真っ白となる。多くの場合、酸素吸入、大量のステロイドホルモンが投与される。たとえ99%安全な治療だとしても、医療の先は何が起こるかわからないのです。

「いつもあなたの傍にいます。一緒に悩みます。一緒に歩いて行きます」

患者、医師の想いが、その時その時で違っていても、医師が一緒に悩み、一緒に歩いてくれるかが一番の問題と思います。

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