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腫瘍内科医のひとりごと 103 「治療をしないで……」
Aさんは4年前、下行結腸(かこうけっちょう)がんの手術を受けました。このときは肝臓に3個の転移がありましたが、切除できました。
手術後、抗がん薬の点滴注射と内服を開始しましたが、5カ月後に肝臓に再発しました。その後も、抗がん薬、分子標的治療薬の標準治療が行われました。
肝転移は大きくなり、数も増えましたが、それでも、最近の約1年間は内服の抗がん薬で増大はなく、また、がんによる症状や薬の副作用はなく過ごしました。
しかし、今回のCT検査では肝転移の数がさらに増え、大きくなっていました。
Aさんの診察時に、担当医は「抗がん薬は効かなくなってきました。もう抗がん薬はやめましょう」と話しました。
薬を止めて、少し様子を見よう
同伴しているAさんの奥さんが「先生、何か他に治療法はないのですか? もう治療はやめようって言われるけど、何もしないで、死ねということなのですか?」
担当医「いままで、大腸がんの標準治療を全部やってきました。いまの薬は効いていたのですが、もう効かなくなったのです」
奥さん「CTで悪くなっていても、検査では抗がん薬の副作用はでていないのでしょう? もしかしたら、薬は、今でもがんを少し抑えているかもしれないでしょう? 続けていただけないですか?」
担当医「がんがこれだけ大きくなってきたら、普通は止めますよ。薬を飲んでいて、がんが大きくなるのを少し抑えているかはわからないけど。検査値には現れなくとも、抗がん薬は免疫機能を低下させているかもしれないし、感染症を起こしやすくしているかもしれない。もし、具合が悪くなったときは、しっかり支えますから、止めましょう」
奥さん「いや、先生、何も症状はないし、薬を続けてくださいよ。治療を止めて、何を頼りに生きられるのでしょう? ただ死ぬのを待つの、そんなことできますか? 夫は元気だし……。先生、薬を続けくださいよ。何もしないで、悪くなるのをみていられないのですよ。飲んでいなかったら、がんはもっと大きく、もっと悪くなっていたたんじゃないですか?」
Aさんは、奥さんを制して「先生の言うとおり、止めて、少し様子を見よう。具合悪くなったら看てくださると言ってくれているのだから。薬、飲みたいときはまた、先生に言うから。ほら、先生困っているよ。先生を困らせたらだめだよ」
Aさんの言葉で、奥さんは黙りました。結局、内服の抗がん薬を止めて様子をみることになりました。
そして、1カ月後の診察のときです。
Aさん「先生に黙っているのは悪いので話しますが、〇〇サプリメントを飲んでいます。友だちが、がんに効くと言うのです」
担当医「サプリメントはあくまで健康食品で、がんに効くというエビデンス(科学的根拠)はないのです」と答えました。
そして、それを勧めるとも、止めるようにとも話しませんでした。
悪くなっても診てくれるとのことで、患者は納得されている。しかし、家族は治療を何もしていないことに不安を感じている。
担当医は、Aさんの身体の良い状態が続いており、さらに友人の専門医から新しい治療法の開発状況や、臨床試験を調べているようでした。