腫瘍内科医のひとりごと 104 「治療していたい」と言ったKさん

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2019年8月
更新:2019年8月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

Nさん(50歳会社員・肺がん)は、某病院の外来通院治療センターで知り合ったKさんのことを心配していました。

通院治療センターの入口を入ってすぐに、4人掛けの長椅子が6脚ほどあります。

抗がん薬治療の点滴準備が整うまで、ここでいつも待つのです。

担当医やがんの種類が違っていて知らない患者同士でも、抗がん薬治療日が同じ曜日のため、毎回会う患者さんがいます。

Nさんが周りを見渡しても、今日もKさんはいませんでした。先週もいなかったので、今週は会えるのではと思っていました。

Kさんは同世代で、Nさんが商談相手の会社に勤めていることがわかり、親しくなりました。泌尿器のがんのようで、全身にがんが転移し、モルヒネを飲んでいると言っていました。

Nさんは、いつもの看護師に「Kさんは?」と聞いてみました。

「こちらには来ていません。泌尿器科外来で聞いてみたらいかがですか?」との答えでした。

約1時間半の抗がん薬点滴が終わってから、泌尿器科病棟に行ってみようかと思いましたが、躊躇(ちゅうちょ)しました。

会計が終わったところで、通院治療センターで何回かお会いした患者のFさんに呼び止められました。

「Kさん、痛みが強くて、お気の毒にホスピスに入ったみたいです」と教えてくれました。

Nさんは「あ、そうですか。教えていただいて、ありがとうございます」と答えました。

もしかして「亡くなった」と言われるのでは? とも考えていたので、少しほっとして帰りました。

「ホスピスでは治療はできないんだよ」

夜になって、布団に入って、Kさんのことが心配になりました。

Kさんが話してくれたことを次々に思い出していました。

「あなたならわかってくれると思うけど、私は少々の痛みなら、耐えて、闘いたいんだよ。ホスピスを勧められているけど、ホスピスではがんの治療はできないんだよ。私は諦めずに、生きたいんですよ。治療していたいのです」

「ホスピスでは治療できないの?」と聞くと、「そうなんだよ、1日の入院費が一律に決まっていて、ホスピスでは、つらいのをとるだけで、がんの治療をしない。つまり今飲んでいる治療薬は止めないといけなくなるそうなんだよ」、と言っていたKさん。

痛みが強くなったのか、ホスピスに入ったとすると、治療は中止され、とても残念に思っているのだろうと思いました。

Kさんはこうも言っていました。

「死を受け入れると、安らかに死ねるって言う人がいるけど、そんなの無理だよ。私は最後まで生きたいんだよ……。私は死ぬのが怖い。だから考えたくない。でも、頭に浮かんでしまう」

Nさんは、治療している自分は、いまは、それなりに生きる希望がある。生きるために治療している。Kさんのように、もし、がんが進んで、治療が中止となったら、自分は、どう生きるのだろうか?

Nさんは「死を受け入れて生きる。それは無理、絶対無理。治療は希望に繋がる。人間いつかは死ぬのだけれど、いまは頑張って生きる」そう考えました。

「最期まで治療してくれて、つらいのも取ってもくれるのか」、担当医に相談してみることにしました。

Kさんに会うのが怖い気がする。でも、会いたい。

今度の休みにホスピスを訪ねてみようと思いました。

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