- ホーム >
- 連載 >
- コラム・レポート >
- 腫瘍内科医のひとりごと
腫瘍内科医のひとりごと 109 ゲノム医療ってなに?
Cさん(35歳 女性 会社員)のお話です。
「私の友達は、母親が卵巣がんで、姉が乳がんだそうで、自分も将来乳がんや卵巣がんになるのではないかと心配して、病院で遺伝子検査をするって言っていました。私の会社の上司は膵臓がんで肝臓に転移していて、治療の薬が効かなくなって、こんど遺伝子検査をすると言うのです。それで『新しく効く薬が見つかるかも知れない』って言っていました。うちの家系は父が胃がんで、叔父さんが肺がんでした。そんなにいろいろわかるなら、私も今のうちに遺伝子検査したいと思うのですが、どうでしょう?」
Cさんの中では、〝遺伝する遺伝子検査〟と、〝がん組織の遺伝子検査〟が混同しているように思います。
私は、Cさんにこんな説明をしました。
「2人に1人はがんになる時代ですから、親戚にがんの方がいないほうが希かも知れません。
遺伝するがんはありますが、はっきり遺伝するがんとわかっているのは、がん全体の数%にすぎません。例えば、家族性の乳がん・卵巣がんになりやすいと言われる遺伝子がわかっています(遺伝性乳がん・卵巣がん症候群HBOC:BRCA1/BRCA2遺伝子)。もし、この遺伝子変異を持っていると、生涯のうちに乳がん、卵巣がんになる可能性は高いのです。
ですから、お友達の場合、家族に乳がん、卵巣がんの方がおられて心配なのだと思います。
このような遺伝する遺伝子をもっているかどうかの検査は、採血して行うもので、遺伝子カウンセリングのできる病院で相談されたほうが良いと思います」
HBOCは、アメリカの有名女優さんががんになる前に乳腺を切除したことが話題になりました。その後、日本でもHBOCとわかったら、乳腺と卵巣を予防的に切除する方がおられます。このようながん予防手術は、がんのリスクを減らすことになり、保険適用(予防的切除で初の保険適用、対象はHBOC)が決まりました。
「遺伝子検査」には、2つある
Cさんの上司のがん遺伝子検査の場合は、Cさん自身のがん組織の遺伝子を検査して治療薬を探すことで、「遺伝子パネル検査」といいます。個々の患者さんのがん組織から、その方にあった薬剤を探すのです。
これまでの治療は、臓器別に適応薬が決まっていました。例えば、臨床試験で、統計上A薬は膵臓がんの患者に効くということから保険適用としていました。しかし、実際には、その方自身に効くかどうかは投与してみないとわからなかったのです。
今回、この遺伝子パネル検査が保険適用(遺伝子パネル検査は56万円、初の保険適用、患者1人1回)になったのは、標準治療がない固形がん(主に希少がん、小児がんなど)と局所進行もしくは転移が認められ、標準治療が終了となった固形がん患者さん(終了が見込まれる者を含む)でした。
この検査で、遺伝子変異から効くと思われる薬が見つかって治療できれば良いのですが、見つかった薬が保険適用外だったりする問題、多くは検査しても治療薬がない問題があります。標準治療が終了した段階の検査ですから、結果が出る前に状態が悪くなってしまう患者さんもおられるのです。
しかし、いま行われている新しい治験に参加できる可能性もあるのです。
この遺伝子検査はがんと診断された早い時期にできれば良いと思われますが、国の財政の問題からも、たくさんの患者さんには出来ないとされています。
ゲノム医療は、個々の患者さんで、個別の治療法を知る方向で進歩しているのです。