腫瘍内科医のひとりごと 133 新年 新しい時代です

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2022年1月
更新:2022年1月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

昨年までは悪夢のような2年間でした。新型コロナ感染症で重症化し、亡くなった患者さんはとても気の毒でした。助かっても、味覚障害などの後遺症が残った方がたくさんおられます。

コロナ感染入院患者に看護はできなかった……

コロナ感染患者を診る病院の医療スタッフは精神的にも大変でした。

患者にしてあげられることが少なく、亡くなるのを看取るのはとてもつらいことです。

看護師長は「コロナ感染の入院患者さんに対して、私たちが行うのは、看護ではなく、介護でした。コロナ感染者以外の一般入院患者さんに行ってきたような、通常の看護は出来ませんでした」と言われます。

辞めていく医師、看護師。残った者がその抜けた穴をカバーするのは尋常ではありません。その病院の幹部は「スタッフのメンタルダメージは大きい。職員のメンタルを診てくれる専任の心理士が欲しい」と言われました。

知人(医師38歳)からの話です。

「私の弟(会社員)はコロナに感染し、自宅療養を指示されました。すると、家族全員が感染してしまいました。マンション生活では、たとえ食事、トイレなどを別に分けることが出来たとしても、家庭内感染を防ぐのは難しいです。幸い、重症化せず、今は皆元気になりました」

「8月頃は、病院外で、自宅で亡くなって見つかる方が増えました。国や都が、重傷者を除いて自宅療養を基本としたのは正しかったのでしょうか? 医師と看護師が常駐した大きな施設を用意して、感染者は、症状があっても無くても、そこに隔離すべきだったのではないでしょうか」

当時、総理は〝国民の安心・安全〟という言葉を繰り返しました。

オリンピック・パラリンピック開催に、多くの国民は中止を希望し、尾身茂(新型コロナ対策を検討する政府分科会会長)さんは、総理の隣で「普通はやらない」と言いました。そのオリ・パラは、観客なしで行われました。

多忙な医療現場では、オリ・パラどころではありません。医療現場と政府の考え方は乖離していたと思います。

多くの方は、コロナ禍のもとでの生活、仕事はとても大変だったと思います。ここ数年は微減となっていた自殺者数は、昨年から増加に転じ、とくに女性が増えたそうです。

なぜか、秋になって、不思議に新型コロナ患者は激減しましたが、新たにオミクロン株が出てきて不気味です。

患者中心の医療に戻って欲しい

さて、新しい年です。もちろん、感染には気をつけながらですが、これまでのコロナを意識した、いわば萎縮したがん医療ではなく、前向きな医療に戻って欲しいと願っています。

がん薬物療法では、治療間隔をあける、G-CSF製剤を使うとかではなく、しっかりと標準治療が行えるようになって欲しいと思います。

もし、点滴治療を内服薬に変えていた場合、手術が延期された場合など、これで良かったのか、その後の患者経過をしっかりと診療し、検証しなければなりません。

そんな2年間でも、進歩した治療法もありました。

CAR-T細胞療法、免疫チックポイント阻害薬同士の組み合わせ、あるいは他剤との併用での治療、また、がん悪液質の治療アナモレリンの出現などなどです。

厚労省は、コロナが収まってもウェブ診療が可能とする方針のようですが、がんでは、直に面接して診療していただきたいと思います。ウェブでは、患者の状態、雰囲気などがよくわかりません。

コロナ流行の再燃なく、患者中心の医療に戻って欲しいと思います。

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