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腫瘍内科医のひとりごと 134 薬でがんの発生を予防できるのか?
薬やワクチンで予防ができるがん種も
薬で、がんの発生を減らしていると考えられるものについて挙げてみます。
胃がん発生は、その大部分がヘリコバクター・ピロリ菌感染によることがわかっており、抗生物質内服でピロリ菌を除菌し、胃がん発症を減少させることができるようです。確かに胃がんの死亡率は、1970年代から低下傾向にあります。
肝がんは、その主要因はC型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)の持続感染によるもので、その80%がHCVに起因します。C型肝炎に対する抗HCV薬の登場があり、また2016年10月1日からはB型肝炎ワクチンが定期接種となって行われており、肝がん全体数は減少傾向です。
子宮頸がんの発生予防には、子宮頸がん予防ワクチンがあります。
子宮頸がんのほとんどがHPV(ヒトパピローマウイルス)感染によるもので、ワクチン接種により感染を予防し、88%ほど子宮頸がんを減らせるとの報告があります。
日本では2013年4月に12歳から16歳(小学6年生から高校1年生に相当)の女性に対して、無料の定期接種として積極的勧奨としました。ところが、接種後に体の痛みなど様々な症状の訴えの報告があり、厚労省は同年6月に定期接種を維持しながら、積極的勧奨を中止しました。
しかし、2021年11月の検討部会で、海外の大規模試験から予防効果が示されているとし、ワクチン接種の積極的勧奨を、今年4月から再開することを決めました。
次にアスピリン(バファリン)のお話です。
通常、痛み止めでは大人1回300mg内服ですが、100mgの低用量アスピリンを1日に1回服用すると、血小板が固まりにくくなる作用があります。血管が詰まっての心筋梗塞、あるいは脳梗塞後の再発予防に、多くは低用量アスピリン内服をします。
外国の論文ですが、「低用量アスピリンを長期間服用している患者は大腸がんが少ない」ことが報告されています。また、大腸がんの前がん病変である「大腸腺腫も低用量アスピリンでその発生が低下する」ことは、いくつかの臨床試験で証明されています。
また、アスピリンは「食道がん、胃がんの発生を抑制している」との報告もあります。
今は制度上がん予防のための内服はできないが……
私事で恐縮ですが、私は心筋梗塞を起こし、2010年12月30日、3本の冠動脈バイパス術を受けました。あれから11年が過ぎました。2016年、ステント術を行いましたが、お陰様で元気でおります。2010年のバイパス術以来、毎朝アスピリンを内服しております。
この間、今日まで、便秘、腹痛等があったこともあり、2度大腸内視鏡検査、3度胃内視鏡検査を受けましたが、とくに大腸がん、胃がんは見つかっていません。もしかしたら、私はその恩恵にあずかっているのではないかと思っています。
そんなことを言っていても、実は大腸がんが隠れていて、見つかるかも知れませんから油断は禁物です。
今の健康保険制度上では、がんの予防のための内服はできませんが、将来、大腸がん発症予防のために低用量アスピリン内服が実用化されることがあるかも知れません。
以上のようなことで、薬でがんの発生を減らすことが出来たとしても、がんがなくなるということではありません。今はがん検診がとても大切です。