腫瘍内科医のひとりごと 137 成人T細胞白血病(HTLV-1)キャリア

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2022年5月
更新:2022年5月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

日本では、がんの発症に起因するウイルスとして、肝がんと関連するB型・C型肝炎ウイルス、子宮頸がんと関連するヒトパピローマウイルス(HPV)、そして成人T細胞性白血病ウイルス1型(HTLV-1)があげられます。

B型・C型肝炎ウイルスに対しては、行政において予防、啓発、肝炎ウイルス検査体制、医療提供体制整備などが進んでいます。

子宮頸がんワクチン接種は、12歳~16歳(小学6年~高校1年に相当)の女性に対し、無料の定期接種として「積極的勧奨」が、2022年4月から再開されました。

HTLV-1感染からのATL発症は5%以下

先日、Fさん(58歳男性、会社員)から久しぶりにメールが来ました。

「元気です。その節はお世話になりました。今、北海道に単身赴任して働いています。もし、来道されることがありましたら、ご連絡いただければ嬉しいです」

Fさんは、40歳のころ、献血しようと考えて、行った先の日赤センターの検査で、HTLV-1キャリアであることを知り、心配して来院された方でした。その後もATL(成人T細胞白血病・リンパ腫)の発病もなく、元気で活躍されています。

HTLV-1感染は主に母乳を介してのことが多かったようで、キャリアの母乳を与えない感染予防対策等によりに減少し、現在、HTLV-1キャリアは全国で約80万人に減ったと言われます。

HTLV-1はATLを起こすことがありますが、キャリアになったからといって過剰に心配する必要はありません。なぜなら、キャリアの95%以上の方はATLを発症することもなく、何ごともなく一生を過ごします。

日本では九州や西南地方に多いとされ、世界的には中央アフリカやカリブ海沿岸地域にみられます。なぜ、沿岸地域に多いのかは分かっていません。

以前のことですが、40代の男性患者が、肺炎と白血病疑いとのことで、救急車で運ばれて来ました。末梢血の標本を見ると、クローバ状の異常細胞があり、HTLV-1抗体は陽性で、ATLの診断がつきました。両側肺X線写真は真っ白で、真菌の一種の感染によるカリニ肺炎でした。治療の甲斐もなく、残念ながら5日後に亡くなりました。

患者の姉Cさんに、弟さんの病気を説明したところ、「私も検査して欲しい」との希望で、Cさんの採血をしました。その結果、HTLV-1抗体は陽性でしたが、発病してはいませんでした。

しかし、驚いたことに、それから約10年後、Cさんは頸部のリンパ節が腫れ、ATLがリンパ腫のタイプで発病されたのでした。頑張って闘病されましたが、残念な結果となりました。

なかにはCさん姉弟のように、とても気の毒な方もおられるのです。

抗CCR4抗体薬や造血幹細胞移植治療が

献血や妊婦健診で、キャリアと告知された場合の不安等に対して、保健所が相談窓口となっています。また、病院のがん相談支援センターでの相談も可能ですし、キャリア外来を行っている病院もあります。

ATLの病状は多様で、進行が早い場合と穏やかな場合があり、急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型に分類されます。

ATLに対する薬物治療は、一般的には多剤併用療法が行われますが、満足できるほど確立されてはいません。CCR4(ATL細胞の表面に現れている受容体の1つ)抗原がある場合は、分子標的薬のモガムリズマブ(商品名ポテリジオ)の使用が可能です。多発性骨髄腫(MM)の治療薬であるレナリドミド(商品名レブラミド)も有効であることが証明されています。年齢によっては同種造血幹細胞移植が検討されます。

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