腫瘍内科医のひとりごと 146 大腸内視鏡検査

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2023年2月
更新:2023年2月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

毎朝の早い出勤がなくなったためか、この1カ月、排便がすっきりしない。弱い下剤を飲んでみても、どうも同じだ。左下腹部がときどき痛み、ときにむかむかするのは下剤のためかはわからない。

下腹部痛は強くはないが病院へ

弛緩性便秘なのか? それとも運動不足か?

階段を登ったり、屈伸運動をしてみたりする。

もともと神経質な私だが、腹を触ってみても何も触れない。

3カ月前に尻もちをついて腰を痛め、下肢のしびれが残っている。そのときCTの検査を行っていて、腹部には問題はないとされた。しかし、CTでは腸の中まではわからない。

下腹部痛は強くはないが、病院で診ていただくことにした。

お願いした担当医は、採血、腹部超音波検査、X線検査を行ってくれた。そして、便が溜まっているようだと60mℓの浣腸の指示があった。そのときは排便できたので、経過をみることになった。

大腸内視鏡検査をしてもらう

しかし、その後もすっきりしない。大腸に腫瘍はないのか? いずれにしても、大腸の内視鏡検査をしていただくしかないと思った。

妻は、「きっと大丈夫よ。あなたは心配性なんだから……」と言う。

自分でもそう思う。

しかし、そんなことを言っても、便が出にくいのだ。仕方がないではないか。

自分で自分を責めてみたり、慰めてみたり。

島崎藤村の詩が頭に浮かぶ。

「……この命なにをあくせく 明日をのみ思いわずらう」

いつも診察する側にいて、患者にはいろいろと指導していながら、自分のこととなると、まったく不甲斐ないのだ。もっと堂々として生きられないのか。

結局、大腸の内視鏡検査を入院して行うことになった。

4年前の前回検査は外来だったが、今回は、検査前日の午前中に入院した。それはとても有難い。この検査は、腸をきれいにするのに下剤をかけるので、急にもよおすと大変だ。

前夜から下剤を飲む。検査を前に、がんなど何もないことを願っていても、心は揺れ動く。がんがあったら、手術していただくしかないのだが……。いつもの眠剤を飲んで眠ることにした。

当日、朝早くから約1.8ℓの下剤を1時間以上かけて飲む。ほとんど全部飲めたのに、まだ、排便がないのが心配になってきたところで、便意をもようしてきた。それから、ひっきりなしに何回もトイレに通った。だんだん、固形がなくなり、水様の便となった。

「良かった」これで腸を診てもらえる。

お尻の開く検査着に着替えて、そして検査となった。

また何か貢献できることを考えよう

「腫瘍など、なにもありませんよ」
「便通を良くする薬を処方しましょう」

消化器科担当医師のやさしい声に助けられた。緊張した体の力が抜けるのがわかった。

考えてみれば、自分は12年前に某病院で、冠動脈バイパスの手術を受け、その後も、ステントを入れて生きている。医療のおかげで生きていられるのだ。

神様は、今回も「もう少し生きていても良い」と考えてくれたように思った。

世界は不条理にも、戦争で、コロナで、たくさんの方が亡くなっている。

いま、生きている自分を幸せと呼ばずになんと言おう。皆さんに感謝だ。

生きていて、「何か貢献できることをまた考えよう」と思った。

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