腫瘍内科医のひとりごと 155 高齢者の大腸がん薬物療法

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2023年11月
更新:2023年12月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

あるクリニックが中心となって、大腸がん・ステージ4(遠隔転移を認める、つまり手術では根治不能)の勉強会がWEBで行われました。薬物療法の専門医からのコメントもあり、私も参加させていただきました。

90歳の大腸がん患者さん

参加してくださった患者さんは、WEB登場の了解も得られた90歳の元気そうな女性でした。彼女は、便通異常を訴えて近医を受診され、CT検査で直腸にがんがあり、肝転移が2カ所認められた方です。

遠隔の画面から患者さんと担当医との会話を聞いていて、患者さんはしっかりしていて、病気のことをよく理解されていると思いました。

まずは、人工肛門(ストーマ)の造設が出来るかどうかを、近くの病院の消化器外科に検討いただくこと。それができたところで、薬物療法の適応となった場合、選択する薬剤の話となりました。

5-FUしかなかった時代に比べて、最近の薬物療法による生存期間中央値は、有意に延長し、30カ月を超えるようになりました。抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などが使用されています。

遺伝子検査で、RAS遺伝子、BRAF遺伝子、MSI-highなどの有無を調べ、その結果からいろいろな薬剤の選択肢があるのです。

「遺伝子パネル検査」は、保険適用上、標準治療終了後とされており、また結果が出るのに、1カ月ほどかかることも問題で、むしろ診断時に検査ができたほうが良いという意見も出ました。

「大腸癌治療ガイドライン」では、1次から4次治療まで、つまり、ひとつが効かなくなっても、2次、3次、4次と、場合によっては5次治療まで記載されています。いずれにしても、選択薬はたくさんあり、とくに内服薬が多くなりました。

例えば、1次FOLFOX/CapeOX/S0X+BEVなど、2次CPT/CAPIRI/IRI+BEVなど、3次IRI+CET/PANIなど、4次スチバーガ(一般名レゴラフェニブ)、5次ロンサーフ(同トリフルリジン・チビラシル)などです。

患者さんとの話し合い、効果・副作用の具合などで、毎回状況をみながら検討されることになると思います。

2例目に検討された方も90歳。S状結腸がんで、認知症がありました。家族の方と一緒に暮らしておられました。

このクリニックは、有床診療所で、ホスピスではありません。

ホスピス病棟の場合、1日の診療費は一定に包括され、輸血や、がんに対する薬物療法は行われないことが多くあります。

わずかな延長ではなく、つらくなく生きられる時代

まず、患者さんの日常生活で、食事ができ、排便ができることが大切です。

原発のがんを切除出来なくとも、人工肛門などのバイパス手術、あるいは、肝、肺転移巣の手術治療、放射線治療、緩和的薬物療法、緩和ケアなどについて議論されました。

肺転移、肝転移があった場合でも、転移巣の切除手術が行われる場合もあります。また、薬物療法だけで、症状なく、長く生きられる方もおられます。

しっかりと保険診療ができる薬剤がたくさん増えてきました。〝免疫治療〟などを謳って、高額の自費診療を行なっているクリニックには注意が必要であることの話も出ました。

今でも、90歳と聞いただけで、抗がん薬治療など、薬物治療を行わないと考える医師もおられると思います。

全身の状態、患者本人の意志、患者・家族の理解により、生存期間のわずかな延長をねらうのではなく、100歳に向けて、つらくなく生きられる時代であると思います。1例目の方は、「草取り」が趣味のようで、また実現できるようにと思いました。

「誰ひとり取り残さないがん対策の実現」「がんとの共生」などの言葉が、頭に浮かびました。

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