腫瘍内科医のひとりごと 156 検査結果を待つ時間

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2023年12月
更新:2023年12月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

今日は、2週間前に行った胃生検の結果を聞きに行く日でした。彼女が、病院の診察室前に座ったのが午前11時、診察予定の30分前でした。

電車から降りて、病院まで歩く街は、マスクをしていない人びとが多かったのに、病院の中では、みんなマスクをしていました。

心はあちこち駆け巡る

ぎっしり座った患者は、診察室2番だったり、6番だったり、次々と呼ばれていきます。それでも、廊下のどこかに「待合では間隔を空けてお待ちください」と書いてありましたが、診察前の椅子は完全に埋まっています。

「検査結果が、がんだったらどうしよう」

この待つ時間が嫌です。がんの患者でも、そうでない方でも、診察前の心配は、みんな同じ思いなのでしょうか?

がんだったら、胃の半分を取るのか、胃全体か、入院の期間はどうなるのか?

母が胃がんだったことが、今回の検査で、急に心の中にクローズアップされました。

「やっぱり、私も胃がんなのか? でも母はがんでは死ななかった」と、思い直し、手術かな? 先生の言われるようにするしかしかたないのだろうけれども……。セカンドオピニオンは知っているけど……。この秋の新型コロナとインフルエンザワクチンは済んでいるけど……。

遠くの病院には行きたくない。入院したら、小学6年生の娘のお弁当は夫が作ってくれるだろうか? 担当医はやさしそうな医師だが……。

正面のテレビは、料理の番組を映しているが、とても見る気がしません。

以前買った、読んでいない小さい文庫本を持ってきたけれど、最近、文字が小さく感じて読む気もしない。

同じところに座っていても、心はあちこちを巡ります。もう、11時25分が過ぎました。

「○○さん」

やっと、呼び出されました。

トントンとドアを叩き、「○○です」と言って、中に入りました。

「がんではなかったです。糜爛(びらん)です。大丈夫でしょう。胃のお薬、出しましょうか? でも1年後にはもう一度、内視鏡をしてみましょう」

ほっとして、「はい、はい」と、返事を2つしました。

気になっていたことをがん相談支援センターで尋ねる

ほっとして、診察室を出て会計に行くのに、がん相談支援センターの前を通って思い出しました。

以前から、相談したいと気になっていたのが、娘のHPV(子宮頸がん予防)ワクチンのことです。まだ、学校からは連絡はないので、聞いてみたいと思っていたのです。

この病院のホームページに、「治療を受ける方々やご家族の中で不安なことや疑問があるときに、その解決の糸口を協働して見つけていく事がこのセンターの役目です」と、書いてありました。

それでも、病院の廊下の掲示、「院内の滞在時間を極力短くしてください」が気になって、前回は寄りませんでした。

がん相談支援センターの入り口で、「小学6年生になる娘のHPVワクチンのことですけど。学校からなにも連絡がなくて……」と話すと、係りの方が「娘さんは〇区ですか? きっと近いうちに、〇区から、予防接種の説明の連絡が行くと思いますよ。学校からではなくて、〇区からと思います」とのことでした。

ほっとして、これも納得して帰路につきました。

「今日は夫と娘の好きな、すき焼きにしよう」

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