精神腫瘍医・清水 研のレジリエンス処方箋

第7回 医師と良好なコミュニケーションをとるために患者力を身につけよう

構成・文●小沢明子
発行:2020年10月
更新:2020年10月

  

しみず けん 1971年生まれ。精神科医・医学博士。金沢大学卒業後、都立荏原病院で内科研修、国立精神・神経センター武蔵病院、都立豊島病院で一般精神科研究を経て、2003年、国立がんセンター(現・国立がん研究センター)東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん患者およびその家族の診療を担当。2006年、国立がんセンター中央病院精神腫瘍科勤務、同病院精神腫瘍科長を経て、2020年4月よりがん研有明病院腫瘍精神科部長。著書に『人生で本当に大切なこと』(KADOKAWA)『もしも一年後、この世にいないとしたら』(文響社)『がんで不安なあなたに読んでほしい』(ビジネス社)など

主治医との関係に悩まれて、相談に来られるがん患者さんがたくさんいます。

「話を聞いてくれない」「いつも事務的だ」「こちらの顔を見ず、パソコンを見たまま話をするので信頼できない」など、その理由はさまざまです。

例えば、患者さんが「私のがんは治るのでしょうか」と質問したとき、「心配ですよね。でも私と一緒に頑張ってみましょう」というようなことを言ってくれればいいのですが、「そんなことは考えても仕方がないでしょ」などと、そっけない言い方をしてしまう医師もいるようです。

また、「化学療法の初日だけでも入院させて欲しいと頼んだのに、『外来で行うことになってますから、無理です』と言われ、拒絶感を味わった」という患者さんもいました。

もし、医師が「化学療法の初日は心配ですよね。でも、病院のベッドは重症の方たちが使っていますから、通院で受けていただけませんか。もちろん、何かあったときは対応します」と説明していたら、患者さんに納得してもらえた可能性があります。

医師と患者のコミュニケーションがうまくいかないとき

患者に寄り添えない医師は、患者さんの立場を想像することができなかったり、情緒的なコミュニケーショが苦手だったりするのかもしれません。また、医師の仕事は多岐に渡るので、ひとりの患者さんの診療に時間をかけられないということもあるでしょう。

ただ、主治医との関係がうまく築けないとき、その原因はすべて医師側にあるとも限りません。例えば、患者さんが医師の話をよく聞いていなかったり、理解できていなかったり、肝心なことを伝えていなかったり、決められた診療時間を守らなかったりする場合などもあるでしょう。

また、医師がしっかりと病状を伝えても、患者さん自身ががんという病気と向き合う準備がまだできていない場合は、「主治医は希望がもてる話をしてくれない。怖い先生だ」と感じてしまうこともあるようです。

がんの治療は長期間に及ぶこともあるので、なんでも医師に相談できる、良好な関係を築いておきたいものです。そのためには患者さんが「患者力」を養うことも大切だと思います。患者力とは、自分の病気を医療者任せにせず、患者も病気や治療に対する知識を得て、医療者と十分なコミュニケーションをとりながら、治療にも人生にも前向きに生きようとする姿勢のことです。簡単ではないことかもしれませんが、ぜひご自身も積極的になられて、納得のいく治療法を受けていただきたいと思います。

主治医に「どうしたいか」を伝えることが重要

一般的に、がんが進行するほど、治療の選択は1本道ではなくなります。まず患者さんが「どうしたか」があり、それを実現するためにはどのような治療法が最もふさわしいのかを、主治医と一緒に考えるのが理想的ではないでしょうか。

例えば、化学療法がつらいときは、患者さんから「投与間隔をあけて、少し休養をとりたい」と提案してもいいわけです。治療がどの程度つらいと感じるかには個人差がありますので、その人でないとわかりません。「体がつらいのでしばらく休みたい」「いったん休んで、家族と旅行に行きたい」など、希望を伝えていただくことは大切です。

医師は治療の専門家ですが、患者さんが望む生活スタイルや人生観まで推し測ることは難しい。引っ込み思案な患者さんでも、頑張って「どうしたいか」を伝えることで、道は切り開かれていきます。

「主治医が決めた治療方針だから、従わなくては」と考えるのではなく、どうしていくかを決める主導権をもって「自分が主体的に選んだ」と思えれば、その治療に納得できる可能性が高まるのではないかと思います。

医師とうまくコミュニケーションをとるために心がけてほしいこと

医師と上手にコミュニケーションをとるためには、短い診療時間を有効に利用することが必要です。それには、次のようなことを心がけてみてください。

●質問や相談したいことはメモにまとめておく

質問や相談したいことは、要点をまとめて紙に書いて渡すという方法が役に立ちます。疑問や相談事があるのにそのままにしておくと、良好なコミュニケーションをとることができないばかりか、不信感につながってしまう恐れも。

知りたいことを前もって伝えておくことで、医師の側もその診察の中でどのようなことを伝えたらよいのか、見通しを立てることが出来ます。

●信頼できる家族や友人に同席してもらう

ひとりだと委縮してしまうかもしれませんので、可能であれば信頼できる家族や友人に同席してもらうのも一案。落ち着いて話ができるし、後から同席者と一緒に医師の話を整理することもできます。

●ひとこと気遣いの言葉を入れる

自分の言いたいことを伝えつつ、相手への配慮も忘れないようにするとコミュニケーションがとりやすくなります。具体的には「丁寧に説明していただいて、わかりやすかったです。できればもう少し○○について教えていただけますか」というように、前段で相手の話をきちんと受けたうえで、さらにお願いする言い方です。心理学の領域ではこのようなコミュニケーションを「アサーション」と言います。相手に不快な思いをさせずに、自分の意見を主張することができます。

●看護師に相談してみる

医師にうまく話ができないときは、看護師に相談してみてはどうでしょうか。外来であれば、外来担当の看護師が患者さんをサポートしてくれるはずです。

近年、医学教育の中でも、模擬患者との面接のトレーニング(ロールプレイ)など、患者さんとのコミュニケーションを意識したカリキュラムが組まれるようになってきました。がん医療に携わる医師は、緩和ケア研究会という学習の場で、コミュニケーションのロールプレイや講義を受ける機会があります。

日本の医療は、医師がすべてを決める時代から患者中心の医療になりつつあることを感じています。患者さんには受け身ではなく自分で治療法を選び、医療者も味方につけ、後悔のないがん治療にしてほしいと思います。

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