精神腫瘍医・清水 研のレジリエンス処方箋

実例紹介シリーズ第1回 余命告知を受けたくなかったのに

構成・文●小沢明子
発行:2021年5月
更新:2021年5月

  

余命告知を受けたくなかったのに

乳がんになり、手術を受け、化学療法も終わり、その後ホルモン療法を行っていました。主治医からもういいでしょうと言われ、長くつらかったがん治療から解放され、これから私の第二の人生が始まるのだと、安堵と希望で胸を躍らせて、通信講座で資格を取るためにがんばっていました。

ところが1年ぶりの定期検診のあと、先日、主治医から「残念ですが、再発です。余命は2年ぐらいと思ってください」と言われ、茫然としました。もちろん再発のことは頭の片隅にはありましたが、治療は順調に進んで、主治医からも〝お墨付き〟をもらっていたので、もうがんとは「さようなら」できたと思っていたのです。

それなのに、まさかの再発告知。そのうえ余命宣告まで。今まで信頼してきた主治医のことが腹立たしくなり、急に信頼できなくなりました。「再発」ということだけでも受け止められないのに、余命まで言うのはひどい。治療が始まりましたが、治療を受ける意味を見出せません。どうすればいいでしょうか。

(60代 女性)

あなたの「怒り」の感情を大切にしてください

しみず けん 1971年生まれ。精神科医・医学博士。金沢大学卒業後、都立荏原病院で内科研修、国立精神・神経センター武蔵病院、都立豊島病院で一般精神科研究を経て、2003年、国立がんセンター(現・国立がん研究センター)東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん患者およびその家族の診療を担当。2006年、国立がんセンター中央病院精神腫瘍科勤務、同病院精神腫瘍科長を経て、2020年4月よりがん研有明病院腫瘍精神科部長。著書に『人生で本当に大切なこと』(KADOKAWA)『もしも一年後、この世にいないとしたら』(文響社)『がんで不安なあなたに読んでほしい』(ビジネス社)など

再発がわかったときの衝撃は、はかりしれないほど大きな苦痛を伴うものだと思います。がんから解放されるために、手術や化学療法、ホルモン療法に取り組んできたのに、再発してしまった。「今までの私の頑張りは何だったのだろう」と、徒労感や無力感に襲われるのは当然のことだと思います。

さらに、主治医が「余命2年」という見通しを、聞きたくないのに一方的に告げられたことは、あなたにとってとてもつらいものだったでしょう。そのことに対して腹立たしい気持ちになるのも無理のないことです。

では、どうしたらよいか。

まず、あなたの「怒り」の感情を大切にしてください。「怒り」は、こうあって欲しいという期待が裏切られたときに出てくる感情です。

「頑張って治療を受けていれば、きっとがんを根治できる」と思っていたのに、その期待は裏切られてしまった。「つらい治療を終えたのに、再発するなんて理不尽だ」「何で私がこんな目に遭わなければいけないのだろう」と思われているでしょう。あなたの気持ちに寄り添っているとは思えない主治医への強い怒りもあるでしょう。

「怒り」の感情を大切にするために、家族でも友人でも、信頼できる誰かに話してください。身近な人に言いにくい場合は、がん相談支援センターなどを利用し、医療者に話していただくこともひとつです。怒りを心の中に押し込めようとすると、いつまでもくすぶり続けてしまいます。誰かに話すことが難しいのであれば、ノートに書いても構いません。怒りの感情にふたをしないことは、自分を守るために必要なことなのです。

怒りの感情を吐き出しているうちに、「あなたがどんなに怒っても、残念ながら現実は変わらない」ということを実感していきます。そして、怒ることに疲れたころ、今度は「悲しみ」の感情がやってきます。悲しみとともに、「希望していたがんとは無縁の人生はもうやってこない……」、「これから行おうとしていたことは、もうできない……」などの喪失感が襲ってくることが多いです。

悲しみは「自分にとって大切なものを失った」ときに生じる感情で、心を癒す働きがあります。悲しみの感情も大切にしましょう。泣きたいときは思いきり泣いて、心を開放させることが大切です。

人は、このような怒りや悲しみの時間を経て、やがて新たな現実に向けて歩みを始めていきます。あなたにもいずれ、「再発したけれど、自分には大切なものがある。自分の人生を生きていこう」という気持ちになれる日がやってくるのではないかと思います。

でも、これはもう少し先のことかもしれません。なので、今は私のこの言葉はあなたに届かないかもしれませんが、予告編としてお伝えしておきます。

おそらくあなたの怒りの多くは、がんという病気に対してのものでしょう。主治医に対しては、「不器用な先生だから、あんな言い方しかできなかったんだろうな」と思えるようになれば、そのことを許せるかもしれません。

しかし、もしどうしても主治医に対する怒りがおさまらないようでしたら、「再発と同時に余命宣告されたのはきつかった」と、率直に伝えてもいいと思います。主治医の気持ちを害するのではないかという心配もあるかもしれませんが、一方であなたが自分の気持ちを押し込めないことは必要なことだと思います。

そのとき、主治医があなたの不安に向き合ってくれないようなら、主治医以外の信頼できる医療者を見つけるか、「主治医を変えて欲しい」という要望を出してもいいかもしれません。もちろん医療の選択肢がいろいろとある地域もあれば、近くにはその先生しかいないという地域もあり、状況はさまざまでしょう。簡単ではないことかもしれませんが、しかし、自分の気持ちを大切にすることはとても大事なことだと思います。

医療者と上手にコミュニケーションをとるために

医師もコミュニケーションに関する訓練を受けるようになり、例えば、10年前に比べると患者中心の医療の考え方が明らかに広まっています。しかし、医師にも患者さんの気持ちを察することに長けている人と、そうでない人と、さまざまですし、相性もあると思います。

医療者とのコミュニケーションで患者さんが傷つくのは大変残念なことですが、起きうることです。当院では医師とのコミュニケーションがうまくいかない場合、看護師などのスタッフが間に入って、診療が円滑にするような工夫をするようにしています。

また、具体的な余命を伝えるか伝えないかは、とくにデリケートなことだと思います。ご本人の希望に沿った療養生活を実現するために、具体的な余命は伝えないとしても、「抗がん薬の投与をすることがあなたにとっては得策ではない状況です」、「療養生活のさまざまな準備をしておいたほうがよい」ということは、適切なタイミングで伝える必要が出てきます。

具体的な余命については、知りたいと思っている方とそうでない方がおられると思います。知りたくても遠慮して聞けない方もいるし、聞きたいけれど怖いという方もいるでしょう。一方で、医療者としては、そもそも余命の予測が難しいということもありますし、伝えることで患者さんを傷つけないかという心配もあります。

医師としては、患者さんの気持ちを探りながら、「あうんの呼吸」で伝えられたら一番よいのですが、気持ちを測りかねるときもあります。なので、余命に限りませんが、「どのようなことを知りたいか」、「どのようなことは言ってほしくないか」、あなたの希望をはっきり伝えたほうが上手くいくことが多いです。

コミュニケーションは双方向のもの。ご本人、ご家族、さまざまな医療者が協力して、納得した医療をうけていただけることを願ってやみません。

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