がんの痛みと鎮痛
個人、企業ともに充実した記事多数

文:諏訪邦夫(帝京大学八王子キャンパス)
発行:2007年1月
更新:2013年4月

  

すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。

武田文和さんの充実した記述

武田文和さんは、以前は埼玉県立がんセンター総長で、WHOの委員を始めとして活躍され、現在もこの面での活動を続けています。その武田さんが、このテーマで詳しく解説されています

「連載」に分類された記事が秀逸です。内容は、「がんの強い痛みには相応した強力な薬物を使おう」という第1回から始まって、「がんの痛みにモルヒネをつかっても麻薬依存症にならない」(第2回)、「脳下垂体アルコール注入法がよく効いた経験」(第3回)、「モルヒネを中心に強力な鎮痛薬を十分につかって、生活の質が極端に改善する」(第4回)と続き、「時刻を決めて規則正しく、除痛ラダーにそって効力の順に」(第11回)など詳しい説明で、文量は全部合わせると薄い新書本くらいもあり、充実した内容です。

検索のトップに出てきたのはまことに当然で、この優れた記述が多くの方々に読まれているのを嬉しく感じました。

専用ネットがいくつか

「がんの痛みネット」は、がんの痛みの一般的な解説で、武田さんのものより簡単ですがアプローチがやや違い、たとえば「痛みはがまんしないこと」、「痛みの上手な伝え方」という項目など、読みやすい内容です。担当しているのはトーレラザールコミュニケーションズという会社で、アメリカでがんの研究機関の1つとして活動しているテキサス大学M・D・アンダーソンがんセンターの日本事務局として、教育プログラムを企画運営していると述べています。

「あなたの健康百科」の「がんの痛みの治療」は、医療と健康をあつかっているメディカルトリビューンという新聞社のもので、「貼付型オピオイド鎮痛薬フェンタニルパッチ」のことを解説しています。

フェンタニルは、1970年頃から医療の場で使われてきたモルヒネと似た作用の合成の薬物で、副作用がやや少なく、また作用の経路や消失の状況にもモルヒネと違う特徴があります。この薬の特性を利用して「皮膚に貼って血液に入る」という経路を使えるようにしたのが「フェンタニルパッチ」で、日本では2001年に認可になっています。

この記事は大阪大学の恒藤暁さんの談話を元にしていますが、フェンタニルパッチ自体については、武田文和さんのシリーズの第10回にも詳しい説明が載っており、またこの単語でインターネットを検索してもいろいろと情報がみつかります。日本ではヤンセンファーマ、協和発酵が扱っていますが、麻薬ですから医師の処方がもちろん必要です。

同様に、「がんの痛みの個別性とオピオイド鎮痛薬の選択」という的場元弘さん(北里大学医学部麻酔科)の記事もあります。もう1人の専門家による解説です。

「がん緩和ケアに関するマニュアル」は、日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の解説で、その第4章が「痛みのマネジメント」で、発生頻度、種類、基本方針、目標設定、診断、鎮痛薬の役割と使用法の基本原則、使用法の実際などに分けて詳しく書いてあります。

闘病記

このテーマにも「闘病記」が上位にみつかりました。「がん治療その前に:癌(がん)治療を経験して深まった家族の絆」というホームページで、義母のがん(卵巣がん)にかかわった経験を、患者さんのお嬢さんの夫にあたる方が詳細に記録しています。この方は、叔父さんの喉頭がんでの苦しみとそれをケアする叔母さん(患者さんの妻)の大変な様子を見知っていて、身内が実際にがんとわかったときに、できるだけのことをしたいと決断されたと書いています。

さらに「まずは周りが患者さん本人の痛みを受け止めて理解してあげることがいちばんだと思います。その上で、痛みを和らげる方法として何が選択できるのかを考える必要があると思います。身体そのものが悲鳴を上げている痛みもあれば、精神的苦痛からくる痛みもあるでしょう」とも述べています。

患者さんは、1998年の夏に卵巣がんと診断されて1週間後に手術を受け(当時64歳)、この時点では治癒困難とされましたが、その後いろいろな治療法が見事に効を奏して、5年以上経過しています。「樹木茶」というのを、抗がん効果があるとして服用されていますが、その点は詳しく述べられていません。

また、著者はこの闘病記を詳しいパンフレットに作成しており、記名で申し込めば送っていただけると書いてあります。私自身は、そちらは入手していませんが、画面で得られる以上に詳細な情報が欲しい方はどうぞ。

多数ある書物の中から

がんの痛みに関しては本が多数ありますが、1つだけとくに紹介します。「痛みの声を聴け:文化や文学のなかの痛みを通して考える」(外須美夫著)で、詳しい目次と著者の言葉が紹介されています。

古事記・万葉集から先年亡くなられた江國滋さんの著作まで、詩・俳句・和歌も多くとりあげ、さらに聖書を含む外国作品や絵画も引用して、自らを襲う痛みを作者自身が具象化している様子を考察しています。文章など製作物の一部を詳細に紹介している点も含め、類書のない特異な存在です。

書き方が具体的でわかりやすい上に、多岐にわたり深い洞察にあふれた記述に感激しました。扱う痛みの原因は必ずしも「がん」とは限りません。それでもなお「痛み」に対する認識を深めるのに、通常の科学や医学とは別のアプローチがあることを教えて、このテーマに関心を抱くどなたにも役立つと推測します。画面上で全文は読めず、「インターネットで探れる」のは概要だけです。版元は医書出版社ながら、価格は一般書のレベルです。つい最近、著者が鎌田實さんと本誌で対談されたのはご記憶の方も少なくないでしょう。

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