患者が医師を評価するシステムの導入を
患者の意識変革が日本の医療を変える

ゲスト:田中祐次 デューク大学メディカルセンター研究員
NPO法人血液患者コミュニティ「ももの木」理事長
発行:2005年12月
更新:2013年5月

  

田中祐次

たなか ゆうじ
1970年生まれ。徳島大学卒業後、東京大学、都立駒込病院を経て現在は米国デューク大学留学中。2000年より患者会「ももの木」設立し定期的な交流会(おしゃべり会)を続ける
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吉田寿哉

よしだ としや
1961年北九州市生まれ。84年一橋大学卒業後大手広告会社入社。89年アメリカ国際経営大学院(サンダーバード)でMBA取得。2003年秋に急性骨髄性白血病発病、臍帯血移植を行い、05年6月復職、現在部長。著書に『二人の天使がいのちをくれた』(小学館刊)

垣根が低く、何でも相談できる医師

吉田 私は一昨年の8月末に急性骨髄性白血病を発病し抗がん剤治療を受けたんですけれども、その後再発し、それでもう移植しか治療がなく、そのことで随分悩んでいた時にとても親身になって相談を受けてくださったのが、デューク大学の田中先生でした。会社の先輩で白血病を克服した方がいて、その人のつてで紹介されたんです。

田中 会ったのは今日が初めて。

吉田 そうですね。先生がこんなにお若いとは……。

田中 メールのやりとりだけでしたからね。

吉田 今、デューク大学ではどんなご研究を?

田中 白血病に対する細胞を使った免疫療法の研究です。移植後の患者さんに生じるサイトメガロウイルス感染を予防するために行う細胞療法なんです。

吉田 やはり免疫療法っていうのはアメリカが進んでいるんですか。

田中 細胞療法はまだ非常に未熟と言うか、ちょっと混迷の中にあるんですよ。

吉田 精神的に行き詰まっている時に、先生には随分助けていただきました。僕のような相談メールはどのくらい来ますか?

田中 この4年間で、のべ200人以上の人から3800通ぐらいかな。

吉田 先生は、垣根が低く、いろいろなことを友人感覚で相談できる。そんな医師はあまりいないと思いますね。

田中 僕メール中毒なんですよ。

吉田 たしかに早いですよね、レスポンスが。

田中 個人的にはメールは楽しいし、患者さんにも喜んでいただいているかもしれないんですけれども、果たしてそれでいいのだろうかって最近思うんです。メールで相談できる人はいいが、できない人もいる。そのことを考えると、もうちょっと全体を底上げするように変えていかなければいけないと。

吉田 そうですかねぇ。あんまり変えないでくださいよ。

田中 実は、僕が考えることはもう限界なんですよ。一生懸命机の上でうんうん唸って答えを出しても、実際に患者さんと話をすると、違うなあっていうのがいっぱい出てくる。患者さんが求めているものが全然わからなかったり、勘違いしていたりなど、患者さんから教えられるんです。だから今後は、僕が考えるんではなくて、患者さんに考えてもらおうと思うんですよ。

患者が医師を評価するシステム

吉田 普通、先生って言えば、見上げるような位置にいて、患者側から相談するのもおこがましい気がするんです。しかし、田中先生は、患者と医師との間の距離を短くしようとして、患者の視点でものごとを考えている。そこがすごいですね。患者は、先生が頼りで、その距離が縮まれば縮まるほど安心するもんなんですね。先生の医療技術っていうのは難しくってわからないけれど、人柄が良くってこの先生に懸けてみようとか、患者は思う。本当はそれだけで決めちゃいけないんでしょうけど。

田中 医者って、患者さんと本音で話をすることがあまりないので、患者さんの気持ちとか、考えは知らないんですよ。マウスにメスを入れて、何か新しい遺伝子を見つける。国が評価するのは全部こうした研究業績だけ。むろん、それも重要なんですけどね。

吉田 今、経営面では、アメリカで「360評価」というシステムが評判になっています。これまでは部下は上司の言うことを聞けばいいんだというような風潮があったけれども、最近は変わってきて、部下が上司を評価する、上司が上司を評価する、同僚が同僚を評価するという形で評価の視点を360度に広げる。そんなことをしているんですね。それを医療業界に持ち込んだらどうだろうなんて思うんです。患者が医師を評価して、患者に評価される医師は論文だけでなく、別な視点でステップアップできる、なんかそういうようなシステムができたらいいなあと思います。

田中 素晴らしいですね。吉田さんみたいな声を皆がどんどん上げればいいんでしょうけれど、医者が考えたらそういう意見にならないんですよ。問題は、医師は皆あまり声を上げないのと、たとえ言ってもそれが反映される場所がないのです。

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