シリーズ対談 田原節子のもっと聞きたい ゲスト・江川綾子さん
生き生きとした闘病生活を笑顔でサポートし続けたい

撮影:坂本政十賜
発行:2003年12月
更新:2013年5月

  

江川綾子

江川綾子
えがわ あやこ
1964年生まれ。
國學院大學卒。1987年から91年まで広告代理店に勤務。93年より田原事務所のスタッフとなる。そのかたわらでミニコミ誌「手前味噌」を友人二人とともに発行、現在に至る。田原総一朗、節子夫妻の次女。

田原節子

田原節子
たはら せつこ
エッセイスト
1936年東京に生まれる。早稲田大学文学部卒業後、日本テレビにアナウンサーとして勤務する。結婚・出産後、アナウンサーからの配置転換命令を受け、納得できずに裁判に訴え勝訴する。以後は10年間をCMプロデューサーとして勤務した後退社、現在は田原事務所代表取締役を務める。村上節子の名で女性問題を始めとするテーマで、各方面に執筆活動を行っている。

生まれたとき以来の密着した生活

節子 これまで、抗がん剤治療で気分が悪くはなっても動けないことはなかったんですよ。だから、入院は繰り返していても、いわゆる寝たきり生活をしたことはないんですが、いまは松葉杖と車イスが必要で、手も動かないから車イスを人に押してもらわないとダメ。絶対にそばに誰かがいてくれないと不自由になって、綾子にこまごまと動いてもらうようになったのは、今年の5月からね。3人の娘のなかでも、綾子はずっと田原事務所の仕事を手伝ってくれていたから、“社長命令”で……(笑)。

綾子 社長命令で、補聴器をとったり、松葉杖を拾ったり、トイレに置きっぱなしの雑誌を持ってきたり。

節子 私、トイレに本持って入らないと、落ち着かないの。トイレから戻るときに、本を持ってこられない。だいたいがトイレに行くときだって、あの本持ってきて、この本を持ってきてって、いちいち本を持ってきてもらってるし。本当に不自由ですね。にわか障害者で、自立できていないんですよ。

綾子 でも、すごくがんばっているじゃないですか。この前までは松葉杖2本つかないと歩くことが難しかったのに、最近は松葉杖1本だけで歩こうとしたり。

節子 だんだん腰がしっかりしてきたんですよ。短い時間なら、1本だけでも支えられるようになってきた。

綾子 お医者さんに、1本でも大丈夫、歩けますよって、言われたわけではないでしょう?

節子 そう、自分で判断して。自分でできるところまではやろう、と。

綾子 自立心があるんだ、と思う。放っておくとどこまでも暴走しそうで、ちょっとこわいかな。

節子 私のことで、あまり綾子の時間を奪いたくないのね。だからそばにいて世話をしてくれるときでも、ちょっと手があけば、早く家に帰りなさい、と言うんだけど、綾子も自分で納得するまでは、延々と私のそばについている。私のほうでも、結局次から次へと頼みたいことが出てきてしまうし。

綾子 長いつきあいのなかで、今が初めてですね、こんなに長い時間一緒にいるのは。これまででいちばん密着していると思います。
私がそう言うと節子さんは、「前にもちゃんとあったわよ。綾子が生まれてから、3カ月ぐらいの間」って言うけれど、私は覚えていませんてば(笑)。

闘病の姿にも魅力がある

節子 新しい薬での治療を始めてから、からだが重いんですよ。今までは普段だったら、スイッチが“病人モード”に入ったときだけ病人になってたんだけど、今度は、マーカーの数値を聞いたとたん、いきなり病人モードになっちゃう。そう言ったら、ナースに笑われましたけどね。 だけど、まわりから常に病人っぽく見られることが、時々重苦しくもあるの。といって、放っておかれてばかりでも腹が立ちます。 そういう意味で、病人はわがままなのね。病気や死について深く考えざるをえないので、それを無視されてもいやだし、いつも病人扱いされるのもたまらない。勝手と言えば勝手ですね。

綾子 それを言うなら、勝手は今に始まったことではないと思います。なぜか私は小さいときから、自分のことを大事にしてくれる母だけど、それでも母には生きたいように生きてほしい、好きなことをさせてあげたいって、思うところがありました。

節子 そう言われれば、たしかに。親としては戸惑う部分でもあるけれど。

綾子 子どものころから、節子さんはものすごくはっきりと自分の意見を持っている人だと思っていました。でも、それだけでなく、いろいろな人の意見を尊重もする。言うべきことはきちんと言うけれど、私の言うことも、どんなことだろうとまるごと受け止めてくれる、鉄人のような母でした。
病気になったときにも、私にはまだどこか「強い母」というイメージが強くて、父に「綾子ちゃんが思っているより、ずっと繊細な人だ」と言われ、ハッとしたことがあります。それで、人生の先輩として、ひとりの大人の女性として、節子さんのことをもっと客観的に見よう、と。今、近くにいて、いまだ鉄人のような部分もあり、ときには衝撃を受けて、へこんでしまったかと思うと、それを跳ね返す柔軟な心を持っているのも、すごく魅力的だと思っています。

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