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10周年記念特別鼎談 日本のがん医療界をリードする2人にがん哲学外来の学徒が日本のがん医療の現状とこれからを質した3時間

「がんは怖い病気」から「がんと共存する」時代へ

撮影●板橋雄一
構成●江口 敏
発行:2013年11月
更新:2019年7月

  

日本のがん医療をリードしている医療機関に、国立がん研究センターとがん研有明病院がある。今回は創刊10周年を記念して、国立がん研究センター理事長・総長の堀田知光さん、がん研有明病院病院長の門田守人さんをお招きし、「がん哲学外来」で知られる順天堂大学医学部教授の樋野興夫さんを進行役に、日本のがん医療の現在・過去・未来を、語り合ってもらった。


門田守人 もんでん もりと
1945年生まれ。1970年 大阪大学医学部卒業、1979年 大阪大学医学部第二外科助手、1987年同講師、1990年同助教授、1994年同教授、2007年 国立大学法人大阪大学 理事・副学長、2011年公益財団法人がん研究会有明病院 副院長、2012年 同院長。2011年よりがん対策推進協議会会長

堀田知光 ほった ともみつ
1944年生まれ。1969年名古屋大学医学部卒業、1990年名古屋大学医学部第一内科講師、2006年独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター院長、2012年独立行政法人国立がん研究センター理事長・総長に就任。専門は血液内科(特に悪性リンパ腫の治療)。内閣官房健康・医療戦略推進本部健康・医療戦略参与、厚生労働省今後のがん研究のあり方に関する有識者会議座長など公職多数

樋野興夫 ひの おきお
1954年生まれ。順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授、順天堂大学大学院医学研究科環境と人間専攻分子病理病態学教授、医学博士。米国アインシュタイン医科大学肝臓研究センター、米国フォクスチェースがんセンター、癌研実験病理部長を経て現職。順天堂大学医学部付属順天堂医院に2005年に「アスベスト・中皮腫外来」2008年に「がん哲学外来」を開設。主な著書に『がん哲学』『がんと暮らす人のために』など

サバイバーへの対応が大きなテーマに

樋野 早速ですが、門田さんは日本のがん医療の現状を、どのようにご覧になっていますか。

門田 日本のがん医療が外国に比べて遅れているようなことを言う人もいますが、私はものすごい勢いで進歩していると思います。その証拠に、これまでは、「がんの死亡率の減少を目指す」と言われていましたが、現在、医療関係者の意識は、「サバイバー(生存者)をどうするか」という点に向かっています。つまり、がんに対する社会的な意識が、「がんは怖い病気だ」ということから、「がんといかに共存するか」という点に移ってきているんですよ。これは大きな進歩だと思います。

樋野 現在、がん患者さんの半分は治り、再発転移した患者さんも慢性化している人が多いですよね。そういう意味では、サバイバーへの対応が大きなテーマになっていますね。

堀田 いわゆるがん難民をどうするのかという問題から端を発して、がん対策基本法ができ、がん医療の均てん化をキーワードに、がん拠点病院も整備され標準治療が普及しました。その結果、がんの死亡率も下がってきています。ただ、そういう状況下でも、がん患者さんの数は増えつつあります。それは罹患率の上昇もありますが、死亡率が下がってサバイバーが増えていることが背景にあります。これからは治療法を進歩させることももちろん大事ですが、相対的に「がんと共に暮らす社会」という視点が大事になってくると思います。

放射線、化学療法とともに改めて手術療法にも着目

樋野 昨年閣議決定した新「がん対策推進基本計画」(平成28年度までの5年計画)では重点的に取り組むべき課題の治療法として、放射線療法、化学療法に加えて、今回、手術療法が挙げられていますね。

門田 6年前に基本計画が策定されるとき、私も議論に参加していましたが、手術療法が含まれていなかったことは、外科医として不本意で、話題にしたんですが、「手術はうまくいっているんだから」ということで、当時遅れていた放射線療法と化学療法に焦点を絞ることになったんです。

今回は、外科医療の崩壊ということが話題になっていたこともあり、手術療法もさらなる充実を図ることになりました。放射線、化学療法はこの5年間で非常に伸び、充実してきましたからね。それから、がん医療の「量から質へ」の転換ということも、手術療法が入れられた要因に挙げられますね。

堀田 従来、外科手術ががん医療の担い手で、外科手術で治らなければもうダメだ、という時代が長く続いてきました。それが最近では、放射線、化学療法が進歩して、がんが多少進行してもコントロール可能な状況になっています。だから早い時期に局所的な手術を行えば、治癒率も高くなるなど、新たな手術療法の位置づけが行われている、という感じがします。

医療従事者に欠かせない緩和ケアの心構え

「がん治療は早期発見、早期治療が大事」と話す門田さんと堀田さん

樋野 現在推進中の「がん対策推進基本計画」では、がんと診断された時点から緩和ケアを推進することになっていますね。

門田 患者さん側や緩和ケアを担当しているドクターから、強い要望があったのです。というのは、以前は、緩和ケア研修を受けているドクターが何人いるというレベルでしか、緩和ケアを評価する方法がなかったわけです。しかし大事なことは、ドクターや医療従事者が、どれだけ緩和的精神で患者さんを看ているかということです。その点を明確にしたということです。

つまり、患者さんが感じている精神的、肉体的痛みをきちんと汲み取れる人が、緩和ケアのできる人なんです。そして、がんを告知されたときの精神的ショックはものすごいものですから、その時点から緩和ケアは必要なんです。また、緩和ケアとターミナルケアが混同される面もありましたから、緩和ケアをしっかり位置づけたということです。

堀田 緩和ケアは医療そのものという感じがします。がんの告知にしろ、治療の説明にしろ、つらいときの対応にしろ、それが医療の本質だと思うんです。かつては緩和ケアは終末期だけというとらえ方でしたが、それが徐々に初期の段階からに前倒しされてきて、緩和ケアの概念もサバイバーシップと重なってくるなど、少しずつ変わってきたと思います。緩和ケアの心構えは、医療従事者全員が身につけておかねばならないものですね。

樋野 がんと診断したときから、医師、看護師、薬剤師といった医療従事者が、緩和ケアの心を持って患者さんと向き合わなければならないのですが、現在の大学のカリキュラムには、患者さんとの対話とか、寄り添い方といったことは、ほとんど含まれていませんね。ですから、大学病院では、がんと診断し、治療方法や予後に関する説明はできても、患者さんを慰め、気持ちをほぐす説明ができていない。

門田 実は、緩和医療学会が設立されたとき、私は反対したんです。緩和医療の発想は医療そのものですから、医療の世界から緩和医療だけを取り出して独立させるな、と主張したんです。どんな医療にしろ緩和医療の精神を理解していない人が医療に携わるのはおかしいのです。

堀田 大学の中には、コミュニケーション学というカリキュラムを設けているところもありますが、それはスキルとしてのコミュニケーションなんです。大事なのはスキルではなく、患者さんに共感する気持ち、心なんです。

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