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日本発の経口抗がん剤の最新データが国際学会で注目
膵がん、大腸がんの患者さんに朗報!標準治療に劣らない経口抗がん剤の効果

取材・文:柄川昭彦
発行:2011年8月
更新:2013年4月

  

ASCO膵がん・大腸がん報告

今年6月、米国シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)で、日本発の経口抗がん剤TS-1の膵がんと大腸がんに対する効果が発表され、注目を集めている。
これらの内容が患者さんにどう役立つかという観点からレポートしよう。

膵がんの大規模臨床試験で新たな知見が発表

3万人を超える人が集う2011年のASCO会場

3万人を超える人が集う2011年のASCO会場

GEST試験と呼ばれる膵がんの臨床試験に関して、大阪府立成人病センター消化器検診科副部長の井岡達也さんが試験の主だった結果を、また、患者さんに切実にかかわるQOL(生活の質)の改善効果に関する検討結果を、東京大学大学院医学系研究科教授の大橋靖雄さんが発表しています。

従来、手術できない進行膵がんに対する標準治療は、ゲムシタビン()単剤療法でした。これが国際的にも標準治療とされています。

GEST試験では、手術できない進行膵がんの患者さんを対象に、ゲムシタビン単剤療法群、日本では膵がん以外のがんにも使われているTS-1()の単剤療法群、それからゲムシタビンとTS-1の併用群という3群に分け、有効性と安全性を比較しています。

この試験は、日本の65施設、台湾の11施設が参加して行われました。

検証するのは、標準治療のゲムシタビン単剤療法に対するTS-1単剤療法の「非劣性」と、併用療法の「優越性」でした。

非劣性とは" 劣っていない" という意味。つまり、TS-1単剤療法がゲムシタビン単剤療法に比べて劣っていないこと、また併用療法がゲムシタビン単剤療法より優れていること、この2つを検証するために行われた試験なのです。

ゲムシタビン=商品名ジェムザール
TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム

世界を驚かせたTS-1の実力

熱いディスカッションが繰り広げられるポスター会場

熱いディスカッションが繰り広げられるポスター会場

3群を生存期間中央値(生存者が半数になるまでの期間)で比較すると、ゲムシタビン群が8.8カ月、TS-1群が9.7カ月、併用群が10.1カ月でした。

また、このデータを統計学的に解析した結果、ゲムシタビン群に対するTS-1群の非劣性が証明されました。膵がんの標準治療薬だった注射剤のゲムシタビンに、肩を並べる経口抗がん剤として、TS-1が評価されたのです。まさに画期的な結果でした。

併用療法群は、ゲムシタビン群より優れた傾向を示したものの、生存期間に関しては、統計学的に優越性を証明できませんでした。ただ、無増悪生存期間(がんが増悪するまでの期間)の中央値は、ゲムシタビン群が4.1カ月、併用群が5.7カ月で、併用群の優越性が証明されています。

併用療法群のQOLは、ゲムシタビン群より高くなっていました。GEST試験のQOLに関しては、2つの評価方法でQOLを比較しており、併用療法群のQOLは、ゲムシタビン群と比較して、統計学的に良好であることがわかったのです。

併用群のQOLが高かったのは、がんを小さくする力が強かったためと考えることができます。膵がんは大きくなると神経を圧迫して痛みが出ます。奏効率(がんが半分以下の大きさになる人の率)は、ゲムシタビン群が13パーセント、併用療法群は29パーセントでした。

つまり、併用療法はがんを小さくする力が強いため、痛みなどが出にくく、QOLを高く維持できたのではないかと考えられるのです。

従来の標準治療より通院回数が少なくなる

GEST試験の結果により、進行膵がんの化学療法は、ゲムシタビンから始めてもいいし、TS-1から始めてもいい、ということになりそうです。

効果に差がないとなると、気になるのは副作用。ゲムシタビンでは血球減少など血液毒性が現れやすく、TS-1は下痢などの消化器症状が出やすい、という結果が出ています。

治療中のQOLは、両群に差がありません。ゲムシタビンは副作用が比較的軽い抗がん剤として知られていますが、そのゲムシタビンと比べてTS-1はQOLに差がなかったのです。

ゲムシタビンの投与スケジュールは、「週1回の点滴を3週続け、1週休み」という4週サイクル。経口剤のTS-1は、「連日投与を4週続け、2週休み」という6週サイクルを繰り返します。

ゲムシタビンの場合、毎週通院する必要があり、点滴にも時間がかかります。その点、TS-1なら通常2週おきの通院ですみ、点滴もなし。利便性の面からはTS-1に軍配が上がりそうです。

治療を受ける患者さんにとっては、治療選択肢の1つとなります。


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