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今年も注目株は非小細胞肺がんの有望新薬クリゾチニブ。新たな発表も 肺がん、肝がん、乳がん、腎がんで注目の発表!ASCO2011最新報告

取材・文:平出 浩
発行:2011年8月
更新:2013年9月

  

肺がん・乳がん・肝がん報告

今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)では、肺がん・肝がん・乳がん・腎がんの化学療法で、興味深い発表がなされた。
肺がんでは、今後の治療法に大きな影響を及ぼすであろう有望な新薬の発表もあった。その動向を確認したい。

ALK陽性の非小細胞肺がんでクリゾチニブが高評価

[図1 クリゾチニブの腫瘍縮小効果](EML4-ALK融合遺伝子を有する非小細胞肺がん)
図1 クリゾチニブの腫瘍縮小効果

[図2 クリゾチニブ服用による有害事象](10%以上)

有害事象 グレード1
n(%)
グレード2
n(%)
グレード3
n(%)
グレード4
n(%)
合計
n(%)
吐き気 43(52) 1(1) 0 0 44(54)
下痢 38(46) 1(1) 0 0 39(48)
嘔吐 35(43) 1(1) 0 0 36(44)
視覚障害 34(42) 0 0 0 34(42)
便秘 18(22) 2(2) 0 0 20(24)
末梢浮腫 13(16) 0 0 0 13(16)
目まい 12(15) 0 0 0 12(15)
食欲減退 11(13) 0 0 0 11(13)
倦怠感 8(10) 0 0 0 8(10)
N=82

[図3 クリゾチニブの効果](生存率)
図3 クリゾチニブの効果

出典:Kwak et al. NEJM 2010;363:1693-703
Bang et al. JCO 2010;28:18S abst より一部改

肺がんでは、クリゾチニブ(一般名)という薬剤が大きな注目を集めた。クリゾチニブは、がん化を促すEML4-ALK遺伝子(以後ALK遺伝子)の働きを抑えるため、ALK阻害剤といわれる。このクリゾチニブは、非小細胞肺がんのうち、ALK遺伝子が陽性の患者さんに対する臨床効果が検討されている。

ALK遺伝子が陽性の非小細胞肺がんの患者さんは、肺がん全体の約5パーセントと多くはないが、このような患者さんには「特効薬レベルの薬」ともいわれ、ASCOでは、クリゾチニブに対して高評価の報告が幾つかなされた。

米国の研究者らからは、ALK遺伝子が陽性の非小細胞肺がんの患者さんにクリゾチニブを投与した試験で、無増悪生存期間(病状などが悪化することなく生存する期間)が10カ月であったと報告された。良好な結果で、その上、副作用の程度もそれほどひどくないことも示された(図1・2)。

別の研究者らからは、ALK遺伝子陽性の進行非小細胞肺がん患者さんにクリゾチニブを投与する群は、非投与群の患者さんと比較して、投与した患者さんの生存期間が延びることが示された。同研究者からは、ALK遺伝子が陽性の非小細胞肺がんの患者さんに対して、クリゾチニブは今後、新たな標準治療になりうるという見解も示された(図3)。

パラプラチンとTS-1の併用療法の可能性

[図4「LETS Study」試験の生存率の比較]
図4「LETS Study」試験の生存率の比較

出典:T. Hirashima, et al. J Clin Oncol 29: 2011(suppl; abstr 7552)

[図5「LETS Study」試験の無増悪生存率の比較]
図5「LETS Study」試験の無増悪生存率の比較

出典:T. Hirashima, et al. J Clin Oncol 29: 2011(suppl; abstr 7552)

日本では現在、非小細胞肺がんに対する化学療法は、白金製剤を含む2剤併用療法が標準的な治療となっている。代表的な白金製剤にシスプラチン()(一般名)やパ ラプラチン()があり、最近はパラプラチンを使った化学療法が増加傾向にある。

パラプラチンをベースにした臨床試験も行われており、「LETS Study」はその代表例だ。切除不能の進行非小細胞肺がん患者さんを対象にした試験で、標準治療であるパラプラチン+ タキソール()の併用療法群と、パラプラチン+TS-1()の併用療法群とを比較・検証したものだ。

結果は昨年同様、同等の効果があることが今年のデータからも示された(図4・5)。しかし、これだけではない。今回のASCOでは、パラプラチン+TS-1の優れた点が幾つか発表された。パラプラチン+タキソールの併用療法に比べて、白血球・好中球・発熱性好中球の減少、神経性障害・関節痛・脱毛の発現をそれぞれ大幅に減らせることがわかったことだ(図6)。一方、血小板は従来の治療法よりもやや高く起こりがちだった。

さらに「生存期間の中央値が15.2カ月と良好」「がんの組織型にかかわらず、高い治療効果が得られると予想される」「投与時間が従来の治療法よりかなり短い」「扁平上皮がんにも良好な傾向がみられる」などの研究結果やデータも発表された。

[図6「LETS Study」試験の有害事象の比較]

  カルボプラチン/TS-1
%(全患者数=279)
カルボプラチン/パクリタキセル
%(全患者数=280)
グレード グレード
3-4
副作用
全発現率
グレード グレード
3-4
副作用
全発現率
発熱性好中球減少 1.1 1.1 7.2 7.2
悪心 22.6 1.8 62.4 11.1 2.1 48.9
嘔吐 7.5 1.8 34.1 6.1 1.1 23.6
食欲不振 25.4 4.7 76.0 15.7 5.4 63.6
下痢 3.2 3.2 32.6 3.6 1.1 20.7
神経障害(感覚性) 2.5 0.4 15.8 25.7 3.2 81.1
間節痛 0 0 7.9 12.5 2.5 67.1
脱毛 1.1 9.3 30.7 76.8
出典:T. Hirashima, et al. J Clin Oncol 29: 2011(suppl; abstr 7552)

シスプラチン=商品名ランダ/ ブリプラチン
パラプラチン=一般名カルボプラチン
タキソール=一般名パクリタキセル
TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム

イレッサに関する新しい研究成果

ASCO展示ブース

前述したように、切除不能の進行非小細胞肺がん患者さんの標準治療は、白金製剤を含む2剤併用療法だ。しかし、EGFR遺伝子変異を持っている患者さんの場合はイレッサ()が奏効()するため、そうした患者さんにはイレッサを先に投与するのがよいのか調査・研究されていた。パラプラチン+タキソールの併用療法との比較だ。

最初のデータは2009年にすでに出ており、それによると、イレッサを先行させたほうが、がんの再発を遅らせることが明らかになっている。今年のASCOでは最新データが発表され、結果はほぼ同じだった。しかし、最も重要な指標である生存期間は、イレッサを先行した場合も、パラプラチン+タキソールの併用療法を先行した場合も、有意な差はなかった。

どうしてこのような結果になったのか。パラプラチン+タキソールの併用療法を先行しても、2次治療では必ずといっていいほどイレッサの治療を行う。このように、EGFR遺伝子変異を持っている患者さんに対しては、イレッサを1次治療ないし2次治療のいずれかに使用することで、生存期間は変わらない結果になったと考えられる。

この結果、診療ガイドラインに変更が加えられた。これまで、切除不能な進行非小細胞肺がんに対して、イレッサは積極的推奨ではなかった(グレードC)が、本試験を含む複数の臨床試験の結果からEGFR遺伝子変異を持つ患者さんに対してはイレッサを標準治療の1つとして推奨される(グレードA)という趣旨の内容が加えられるようになった。

イレッサ=一般名ゲフィチニブ
奏効=効きめ・効果


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