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糖尿病患者さんのがん治療

密接な関係のがんと糖尿病はセットで考えて治療する

監修●大橋 健 国立がん研究センター中央病院総合内科科長
取材・文●中田光孝
発行:2013年12月
更新:2019年7月

  

「がんと糖尿病は連携をとって治療に臨むことが大切です」と話す大橋健さん

がん患者さんの中でも60歳以上の患者さんでは、3人に1人が糖尿病の可能性を秘めていると言われている。がんも糖尿病も、慢性疾患として日々の治療が重要となる。だからこそ、それぞれの治療の影響や兼ね合いについて、患者さんはもちろん、家族も知っておく必要がある。

糖尿病サイト「糖尿病とがん」(大橋健さん監修)
http://www.club-dm.jp/cancer/index.php

がんと糖尿病の密接な関係

慢性疾患の中でも、糖尿病患者さんはがんになりやすく、がん患者さんは糖尿病を起こしやすいなど、共通の基盤があることが指摘されている。

国立がん研究センター中央病院では2010年に総合内科を開設し、他の内科疾患を合併したがん患者さんのサポートを行っている。

糖尿病を合併した患者さんに対しては、入院中の血糖コントロールのサポートはもちろん、外来通院中の患者さんを対象に「糖尿病腫瘍外来」の名称で、抗がん薬治療時の糖尿病の悪化や食欲の変動への対処、手術前の血糖コントロール、がん治療中に糖尿病を発症した患者さんへの対応などを行っている。国立がん研究センター中央病院総合内科科長の大橋健さんは次のように話す。

糖尿病だと1・2倍がんに

「現在、日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人はがんで死亡しています。一方、厚労省の調査によれば、糖尿病が強く疑われる人が890万人、糖尿病の可能性を否定できない、いわゆる予備軍が1,320万人いると言われており、両方を足すと2,210万人となります。糖尿病もがんと同様に年齢が高くなるほど増えるので、60歳以上では3人に1人が糖尿病の可能性があるという状況です」

したがって、60歳以上の6人に1人は糖尿病とがんの両方を持つ可能性がある。

実際に、国立がん研究センター胃外科で胃がんの手術をした患者さんのうち、糖尿病を合併していた患者さんは全体の約10%を占めるという。

図1 糖尿病のがん発症リスク

糖尿病がある人は、それがない人に比べ、がんになる確率が1・2倍に(日本癌学会と日本糖尿病学会の合同委員会による発表より)

最近になって糖尿病があると、がんになりやすいこともわかってきた。2013年5月に日本癌学会と日本糖尿病学会の合同委員会から「糖尿病とがんのリスクに関する報告」が発表されたが、この報告によれば糖尿病がある人は、それがない人に比べ、がんになる確率は1・2倍(図1)。

糖尿病とがん発生の間には肥満、運動不足、喫煙、飲酒など共通の原因もあるが、インスリン抵抗性や高血糖など糖尿病の病態ががんを増やすリスクになると言われている。とくに増加しやすいのは肝がん、膵がん、大腸がん、子宮体がんと乳がんだ。

インスリン抵抗性=インスリンの効力を規定する個人の特性。健康な人と比べて糖尿病の人では、同じ量のインスリンを注射しても血糖値が下がりにくい

膵がんが原因で糖尿病に

「元々糖尿病があった患者さんに、がんができた場合の特徴的な症状として、血糖コントロールが悪化することが多いと言えます。本人はとくに食べ過ぎてもいないし、運動も以前と同様にしていても血糖が上がる。特別な理由もないのに血糖コントロールが悪くなる場合、がんが隠れていることがあります」

がんが原因で糖尿病になる場合もある。とくに膵がんだ。膵がんが原因で糖尿病になった人では、膵がんを治療すると糖尿病が治る場合もある。「膵がんは見つかりにくいがんなので、糖尿病治療中に膵がんが見つかり、これが原因で糖尿病になっていたと後からわかることもあります」

糖尿病はがん治療を制限し、死亡リスクを高める

糖尿病があると、がんの治療に制限がかかることが多い。「糖尿病は心筋梗塞や狭心症などの心血管系の病気を合併しやすいことが知られています。例えば腎臓や心臓が悪い場合は、普通の人よりも抗がん薬の副作用が強く出やすいので、投与量を減らす必要があるし、手術のリスクも高くなるので、手術の規模を本来よりも小さくせざるを得ないことがあります。これらの制限が原因で、糖尿病合併がん患者さんは、糖尿病でない人に比べ生存期間などの予後が悪い傾向があります」

図2 がん術前の血糖コントロール

血糖コントロールがうまくできていないと、術後傷の治りが遅かったり、細菌感染を起こしやすくなる恐れがある(資料:糖尿病ケア112号,2012)

また、外科手術の前後は適正な血糖値にコントロールしておく必要がある。これを怠ると傷の治りが悪かったり、細菌感染を起こしたりしやすくなる。

「具体的には、それまで内服薬を使用していた場合でも手術前に一時的にインスリン注射に切り替えたり、既にインスリン治療をしていた人は注射回数を増やす〝強化療法〟に変更したりして、きめ細かな血糖コントロールを行い、手術に備えます」(図2)

ステロイド薬は血糖コントロールを悪化

抗がん薬治療が血糖コントロールに与える大きな影響は2つあると大橋さんは話す。

「1つは抗がん薬治療に際して、吐き気止めとしてほとんどのケースで使われるステロイド薬による影響です。ステロイド薬は吐き気に非常に有効ですが糖尿病患者さんに使うと、ほぼ100%血糖コントロールが悪化します。具体的には空腹時血糖値が100~150㎎/dLの範囲で良好にコントロールできていた人が、ステロイド薬治療を行うと300~400㎎/dL程度に上がったりします。さらにこの治療を3カ月程度続けた場合はHbA1cが8~9%くらいに悪化します。対策としては手術前後と同様、血糖コントロールを強化します」

ここで重要なのは、元々糖尿病がなかった人でもステロイド薬を投与されているうちに、糖尿病になる場合があることだという。こういう人は元々糖尿病になりやすい素因があり、例えば親族の中に糖尿病患者さんがいたり、血糖値が境界型であったりすることが多いという。

HbA1c=ヘモグロビンA1c(糖化ヘモグロビン) 境界型=糖尿病ほどは高くないが、正常値よりは血糖値が高い

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