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心疾患患者さんのがん治療

がん治療中は心臓にも注目を!心疾患の症状に要注意

監修●庄司正昭 国立がん研究センター中央病院総合内科循環器内科医長
取材・文●町口 充
発行:2014年1月
更新:2014年4月

  

「がん治療は心臓に影響を及ぼすことが少なくないので、自覚症状が重要」と話す庄司正昭さん

心臓など循環器の疾患を持っていたり、心臓の機能が弱っている人ががんになるケースが少なくない。ところが、抗がん薬の中には心臓に悪影響を及ぼす毒性(心毒性)を持つものがあるなど、がんの治療によって循環器、特に心臓の疾患を悪化させることがあるだけに、十分な対策が欠かせない。

一般患者さんに比べ心電図に異常が多い

循環器の疾患といってもさまざまで、心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患、心臓の機能そのものが弱ってしまう心不全、心臓の拍動に乱れが生じる不整脈などがあり、総称して心疾患と呼び、脳血管障害(脳卒中)も循環器疾患の延長とも言える。

国立がん研究センター中央病院総合内科循環器内科医長の庄司正昭さんによると、高齢化が進む現代社会ではがん患者さんが治療を受けようとする時点で、既に心機能に問題があることも多く、入院時に心電図検査で異常な所見を示すことも多いという。がん患者さんの多くが、治療前または治療後に何らかの心臓のトラブルを抱えやすいことのサインなのかもしれない。

そこで、手術にしても化学療法にしても、心電図検査や心臓超音波検査(心エコー)などを行い、心臓の疾患がないことを確認してから治療を開始するのが原則となっている。

「心臓病があるとか、心機能がよくないという場合は、まず心臓の治療を先にやってもらうことになりますが、正常と異常のギリギリのラインにいる方だと非常にデリケートな判断が求められます」

手術の場合、今まで心臓の病気をしたことがなくても、例えば心電図検査で狭心症の疑いがあれば、心臓に負荷をかけるマスター負荷心電図検査などでさらに詳しく調べる。手術前に治療が必要となれば、まず先に狭心症の治療をすることになる。

図1 ステントの留置

ステント留置の様子

狭心症のカテーテル治療では、バルーン(風船)療法といって、狭くなった冠動脈にバルーンつきのカテーテルを入れ、バルーンを膨らませることで狭くなった部分を広げる。その際、ステンレス製の網でできたステントを入れて治療する(ステント留置)ことがあるが、ステントを留置するとしばらくは、血液をサラサラにする薬(抗血小板薬)を服用しなければならない。

そうすると手術ができなくなるので、がんの手術が優先される場合には、ステントを留置せずにバルーン療法で血管を広げるだけにして、がんの手術後に改めてステントを留置することがある。がんの治療を急がない場合には、ステント留置を先に行うなど、ケースバイケースだ。

化学療法では、がんの治療を優先させたいという場合でも、なるべく心毒性が少ない薬を使う。しかし、抗がん薬で命を落としては本末転倒なので、人命優先のため抗がん薬の投与を見送ることもある。

心筋障害を起こしやすい薬剤

表1 心筋障害を起こす可能性がある薬剤

抗がん薬による治療で一番問題となるのは心臓の筋肉、つまり心筋への影響。庄司さんは次のように語る。

「心臓は筋肉で動いていますが、抗がん薬で心筋の機能を低下させる心筋障害を引き起こすことがあり、これを広く心毒性と言ったりします」

心筋障害が進んで、心臓のポンプ機能が著しく低下する心不全に陥れば、全身に血液が行き渡らなくなって生命を脅かす可能性すらある。

心筋障害を引き起こす代表的な薬は表1の通り。

とくに心筋障害を引き起こしやすいのがアドリアシンとハーセプチンだという。アドリアシンは最も代表的な抗がん性抗生物質の1つだし、ハーセプチンも乳がんの治療薬として使われている。一般に心不全というと高齢者に多い疾患のイメージがあるが、乳がんの患者さんの中には30代、40代の若い人が少なくないため、ハーセプチンで治療していて30代なのに心不全というケースもある。

アドリアシン=一般名ドキソルビシン ハーセプチン=一般名トラスツズマブ

浮腫・体重増も心毒性のサイン

心筋障害が現れたら、投与を中止して心毒性の低い別の薬に変更するか、減量して投与時間を長くしたり、分割投与といった、投与方法の変更などの対応が必要になってくる。

「最近の研究で、一度副作用によって心機能に影響が出てしまうと、投与を中止しても心機能が元に戻らない薬と、投与を中止すれば心機能が元に戻る薬があることがわかってきました。アドリアシンは一度心機能が弱ってしまうと基本的には元には戻らないことが知られており、心毒性がわかった時点で速やかに中止します。一方、ハーセプチンは投与を止めれば徐々に機能が戻る場合もあることがわかっています」

このため、一度ハーセプチンの投与を休むことによって心機能の回復を待ち、再び投与を始めることもあるという。

一方、アドリアシンの場合は、同じアンスラサイクリン系抗がん薬でも心毒性が軽微なナベルビンやテラルビシンに変えることがある。

アンスラサイクリン系抗がん薬は、用量依存性といって、薬の量に応じて副作用が出やすくなることがわかってきた。この量を超えるとよくないという「累積総投与量」があるので、投与量を慎重にチェックすることが大事だ。

抗がん薬投与中の心毒性対策としては、心エコーや心電図検査など心機能評価を定期的に行い、注意深いモニタリングが欠かせない。患者さん本人の自覚症状も重要だ。

「虚血性心疾患なら胸の痛み、不整脈なら動悸、心不全なら息切れが3大症状といわれますが、体重が1週間で1キロ増えたとか、足にむくみが出てきたというのも心毒性のサインである場合があります」

こう語る庄司さんによると、最初の徴候としては、血液の循環がうまくいかなくなって水分が体のあちこちに溜まるようになり(水分貯留)、むくみとなることが多い。それとともに余分な水分量だけ体重に上乗せされ、一時的な体重増となって現れる。

ナベルビン=一般名ビノレルビン テラルビシン=一般名ビラルビシン

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