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人口高齢化に伴い罹患者数が増加

がん治療に支障を来すケースも 併存疾患を見極めた治療法の選択が重要に

監修●渡邊清高 帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科准教授
取材・文●中田光孝
発行:2015年12月
更新:2016年2月

  

「ご自身で治療の目的とその治療に伴って併存疾患にどのような影響があるのかを見極めて治療法を選択していくことが重要です」と語る渡邊清高さん

人口の高齢化に伴い、がん患者の平均年齢も高くなり、多くのがん患者が、がんと診断された際に糖尿病などがん以外の病気、つまり併存疾患(併存症)を持っていることが明らかになっている。併存疾患はがん治療の効果、副作用などの面で大きな影響を及ぼすことになるため、併存疾患を持つ人にはより慎重な対応が必要となってくる。

併存疾患別のがん治療への影響については各論で詳細が紹介されるので、ここではわが国におけるがん患者の動向(発症率、死亡率などの推移)、併存疾患の種類、がん治療との関係などについて、その概要を国立がん研究センターなどでがん対策に取り組み、現在がん診療の現場で携わっている帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科准教授の渡邊清高さんに伺った。

1 併存疾患(併存症)とは何か

併存疾患(comorbidity)とは、基礎疾患(primary disease/disorder)に1つ以上の別の病気が共存する状態を指す。がんの場合は、通常、がんと診断された際にすでに存在していた病気、あるいはがんになることで顕在化し、新たに問題になる病気を意味することが多い。

がんに伴って起こる病気や、がん治療の副作用で起こる病状は合併症(complication)と呼ばれ、通常区別されている。

「既に併存疾患がある状態で発がんする場合とがんに罹患してから併存疾患が発症するケースがあるわけですが、どちらの場合も、併存疾患がない方に比べれば、がん治療の効果や予後を考える上でリスクがあります。また、併存疾患があると、治療を開始後、副作用や合併症が生じた際に、重症化しやすいことが知られています」と渡邊さんは語る。

「併存疾患を持つ患者さんは主治医の説明を聞いた上で、ご自身で治療の目的と、その治療に伴って併存疾患にどのような影響があるのかを見極めて、治療法を選択していくことが重要です」

2 がん患者の動向と併存疾患

図1 主な死因別にみた死亡率の年次推移(1947-2013年)

(厚生労働省人口動態統計 2013年)

がんは、それまで長く日本人の死因で1位だった脳卒中を抜いてトップとなった1981年以降、首位の座を保っている(図1)。

国立がん研究センターがん対策情報センターのデータでは、2011年の全国でのがん罹患者数は約85万人、がんによる死亡者数は2013年には約36万人とされている。

また同センターの推計によると、2011年時点での日本人が一生のうちにがんに罹患する可能性を表す「生涯リスク」は、男性62%、女性が46%であるという(図2)。

「国立がんセンター(当時)が設立された1960年代には、がんに罹患される方の年齢は60歳代が中心だったのですが、50年後の今日では70歳から75歳の後期高齢者になってからがんが見つかる方の割合が増えています。そのため、ほとんどのがん患者さんが、がん以外に何らかの併存疾患を有していることが予測されます。

今後、団塊の世代が高齢者世代に入ってくる2025年になると、がん罹患者数は90万人台になってくると思いますが、その内訳をみると、75歳以上が半分以上を占めるようになるとの将来推計もなされており(図3)、がん患者さんのほとんどが何らかの併存疾患を持つ時代になりつつあると言えます」

図2 生涯リスク-生涯でがんに罹患する確率

(国立がん研究センターがん対策情報センターによる推計値、2011年データ)
図3 がん罹患者の将来推計

(国立がん研究センターがん対策情報センター)

また、臓器別のがん罹患動向推測では、女性の場合は大腸がん、男性の場合は肺がん、前立腺がん、膵がんなどが最近増えてきており(図4)、これらのがんは年齢と共に増えるがんであることから、併存疾患がある状態でがんになる患者が増えると予測されている。

図4 がんの動向(男女計)

(国立がん研究センターがん対策情報センター)

ただし、渡邊さんによれば、併存疾患を持ったがん患者数を正確に把握するのはかなり難しいという。

「日本でがん患者さんのデータを詳細に記録・保存する〝がん登録〟が法制化され、来年(2016年)から全国がん登録が始まりますが、がん登録では通常、併存疾患についての情報を採っていません。がん登録で収集されるのは、患者の性別、生年月日、がんの部位、進行度、治療法などです。

併存疾患を持つがん患者数を推計するには、例えば特定の地域やがんの種類ごとに併存疾患の有無を含めて何百人、何千人単位でデータを採る必要があります。あるいは糖尿病、高血圧、脳卒中、認知症などの推計患者数と、年齢層別のがん患者数が分かれば、両方を掛け合わせることで推計できます。しかし、併存疾患の定義や診断基準が必ずしも一律ではない場合があることも、併存疾患をもつ患者さんの実態把握を困難にしています」

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