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臨床研究を積み重ねることが急務
高齢がん患者の治療選択に役立つ 包括的な機能評価ツール
日本のがん罹患者の65歳以上の割合は約3分の2。併存疾患を抱えていたり、生理的・精神的な機能の低下が見られる高齢者も多く、標準的ながん治療を行うかどうかの見極めは重要だ。そのため、高齢がん患者に対し、リスクを評価して治療法を選択していく必要性が高まっている。高齢期のがん治療の現状と対策、高齢がん患者の機能評価などについて、専門医に伺った。
急増する高齢がん患者の臨床研究が急務
国民の4人に1人が65歳以上という「超高齢時代」を迎えたわが国では、10年後には国民の4分の1が75歳以上の「後期高齢者」となると予想される。世界でも類を見ない「超高齢社会」が加速する中、高齢のがん患者も急増している。
ところが、高齢者のがん治療に関しては、「まだ研究が始まったばかり」と、高齢者のがん治療に詳しい杏林大学医学部内科学腫瘍内科准教授の長島文夫さんは指摘する。
「現在、がん治療を受ける患者さんは65歳以上が約3分の2を占め、高齢者のがん治療を行う機会が急増しています。しかし、高齢者を対象としたがん治療については、日本では研究者(医師)が個別に行っている例がわずかにあるものの、体系的な臨床研究はほとんど行われておらず、解決すべき課題が山積しています」
長島さんの研究グループでは、5年ほど前から他の研究者グループと連携を取りながら、高齢者を対象とした治療法の研究に着手している。
国が研究補助費を出して行われる「厚生労働省科学研究費による研究」で、平成16年~24年の9年間に「高齢者」のつく研究課題はわずか3つしかなかった。そのため、有識者会議では「高齢者のがん研究が急務である」として、ようやく昨年(2014年)から枠を増やしたという。
海外には老年腫瘍学会があるが、日本では高齢者のがんを扱う学会もないために、高齢者のがんの研究も進まず、また、臨床でも具体的な方針が決まらない。
「そこで2015年4月に発足した日本がんサポーティブケア学会の中で、高齢者のがん治療部会を作り、学会として研究をまとめていく方向に動き始めたところです」
部会長の長島さんを中心に、日本での研究を進める一方で、海外の学会と協力して「日本人向け高齢者の前立腺がんのガイドライン作成」を進めるため、国内外の研究者の連携を図るなど、窓口的な役割も果たしている。
高齢者は一律の標準治療では対応できない
高齢のがん患者は、加齢に伴う生理的な変化に加え、併存疾患によって多種類の薬を服用していたり、ADL(日常生活動作)や認知機能が低下していたりすることが多い。また家族形態や経済的貧窮といった社会的な問題も存在する。一口に高齢者といっても、個々の持つ背景は多様だ。
しかし、現在のがん治療の多くは、比較的若くて元気な人を対象に行われる臨床試験の結果を基に行われている。そのため高齢者のがん治療では、若年者と同じ標準治療を行った場合、メリットよりもデメリットのほうが上回ってしまう可能性がある。
例えば、足腰が弱っている患者に、抗がん薬治療の副作用で足にしびれが出た場合は、ますます歩行困難となるかもしれない。また、認知機能が低下している患者では、薬の服用を間違いやすく、予想通りの効果がみられなかったり、副作用が強く出たりするケースもあり得る。
「ガイドラインに高齢者の治療法についての記述は、ごくわずかしかありません。高齢者にはどのような治療法が推奨できるか、どんな点に注意すべきか、といった点に関しては十分なエビデンス(科学的根拠)がないことが多く、『高齢者では全身状態(PS)を勘案し、慎重に投与する』などの記載がある程度です。そのため臨床現場では、高齢者の年齢や合併症、PSなどを判断基準として、医師の個人的な匙加減に任されているのが実情です」
高齢者のがん治療は、「今後、臨床研究を積み重ねて、データを蓄積していくことが急務」と長島さんは強調する。
「高齢者でも、心身ともに若年者同様に元気で併存疾患もない人は、標準治療を行えばよいでしょう。一方、初めから寝たきりの方などは、その後の経過や余命などからいって、積極的な治療はまず選択肢になりません。高齢者のがん治療で最も問題になるのは、前者と後者の間のグレーゾーンの方々です。その方たちにどういう治療をすればよいのかということが、今後の課題の1つです」
高齢者に適した治療法を確立するには、病院内でがん登録を進め、臨床試験を行って検討していく必要がある。さらに実際の臨床場面では、治療決定の際に年齢やPSだけでなく、ADL、使用薬剤、併存症、認知機能、うつ状態、栄養状態、社会的支援といった、心身の状態とリスクを正確に把握する総合的な評価基準が求められている。
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