安心して臨床試験を受けるための基礎知識
3.抗がん剤の臨床試験は一般薬と違うの?
浜松オンコロジーセンター長の
渡辺亨さん
がん患者を対象にする第1相臨床試験
参加する患者さんのメリットはほとんどない
抗がん剤の第1相臨床試験は、一般薬の試験が健常人を対象としているのとは違い、がんの患者さんを対象として行われる。抗がん剤は細胞毒性が強く、DNAなどに付加逆のダメージを残す可能性があり、健常人にはリスクが高すぎるためだ。ただし、がんの治療薬の中でもホルモン剤などは、閉経女性などの健常人を対象として行う場合もある。
第1相臨床試験ではすでに確立した治療法により手を施し尽くした末、「ほかに治療の手立てがない」という患者さんから治験参加の希望者を募ることになる。薬剤はどのがんに効くかわからない段階なので、肺がんの患者さんとか乳がんの患者さんというふうに特定しない。
ただし、培養細胞試験や動物実験により、例えば「乳がんに対してある程度効果が期待されている」という薬物であれば、初めから乳がんの患者さんを対象に第1相臨床試験を行うこともある。このように病気を特定して行う第1相臨床試験をディジーズ・オリエンテッド・フェーズ1・スタディ(Disease oriented phase1 study)と呼ぶ。
第1相臨床試験の段階では人間への有効性も副作用も未確認なので、必ずしも治療効果が期待できるとは限らない。対象となった患者さんは副作用のみ経験し、何の効果も得られないということもある。
「その反対に、他に有効な治療法がないという患者さんにとってはまったく無益ではないという可能性もあります。すなわちここまで薬として開発が進んでいるということは、人間に対しても有効性が何も期待できないわけではないからでしょう。ただし、それは『20人に1人くらい効果があれば儲けもの(5パーセント以下)』といったレベルです。が、その中でもディジーズ・オリエンテッド・フェーズ1・スタディなどは、当然それより高い期待を持つことができます」
第1相臨床試験では、とくに「現在の患者さんによる将来の患者さんへの贈り物」という色合いが強いのである。
安全が確保された量から順次増量
第1相臨床試験は、通常1つの医療施設で実施する。
第1相臨床試験では、どんな投与量が妥当かという検討も行われる。第1相臨床試験で被験者に最初に投与してみる量を「スターティング・ドーズ」という。この量は通常、マウスや犬を使った動物実験から、「体重あたり、あるいは体表面積あたり××ミリグラム」という形で決められる。十分に安全な量を選んで決められるので、その量では通常有効性の面ではほとんど期待できない。そこで一定のルールに従って、投与量を増やしていくようになっている。
まずスターティング・ドーズで3人の患者さんを対象に投与して、副作用の種類や程度を調べる。そして、重大な副作用がなければ別の3人に対して2倍の量を投与し、それでも重大な副作用がなければ、さらに別の3人にその1.5倍増量して、さらに次には別の3人に1.2倍に増量して投与するというふうにどこまで増やしたら重い副作用が出るかを見極めていくのだ。
もし3人のうち1人でも重い副作用が出れば、その段階でさらにその量の薬剤の投与を行う3人に追加して計6人で検討する。その6人のうち、副作用が2人以下なら、次の投与量に進むが、3人以上の患者さんに副作用が出ると、その投与量を「最大耐用量」とする。それ以上の投与量では、3分の2以上の患者さんに重い副作用が出る可能性が高くなって耐えられないと考えられるわけだ。
こうした試験を行うことにより、それぞれの抗がん剤を安全に投与できる量を知ることができる。そして、次の第2相試験では最大耐用量よりも1レベル下の量で投与していく。
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