常に精進を怠らない、心やさしき脳神経外科医のホープ

自分がイメージした〝勝ちパターン〟を作る

取材・文●伊波達也
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2015年3月
更新:2015年8月

  

福田 直 
千葉徳洲会病院脳神経外科部長

千葉徳洲会病院脳神経外科部長の
福田 直さん

〝神の手〟といわれる脳腫瘍手術のスペシャリスト・福島孝徳医師の薫陶を受け、現在は良性脳腫瘍とがんの転移性脳腫瘍に対して、その病状に応じて手術と高精度放射線治療を行う、テーラーメイド・ハイブリッド治療を専門とするのが千葉徳洲会病院脳神経外科部長の福田直さんだ。常に精進を怠らない、心やさしき脳神経外科医のホープだ。

ふくだ あたる 1974年東京都生まれ。2000年昭和大学医学部医学科卒業。昭和大学医学部附属病院脳神経外科入局。その後、国立国際医療センター(現国立国際医療研究センター)、都立府中病院(現多摩総合医療センター)、福島孝徳記念病院、船橋市立リハビリテーション病院などを経て、2012年より現職。日本脳神経外科学会専門医、評議員。日本脳卒中学会専門医。日本リハビリテーション医学会認定臨床医ほか。昭和大学医歯薬保健医療学部ラグビー部監督も務める

最終局面が平易になるように事前に準備

「脳の手術は、脳を傷つけずに腫瘍を取り切ることが大切ですが、そのように手術を行うためには、自分がイメージした〝勝ちパターン〟を作ることが大切です」

脳神経外科医として、幾多の脳腫瘍に立ち向かってきた福田直さんはそう話す。

〝勝ちパターン〟とは、腫瘍を取り切る最終局面ができるだけ平易になるように、事前に準備をし、手術を進めることだという。

「手術をやりやすくするために大切なことは、血を出さないことと、適切なテンションをかけることです。出血がなく適切なテンションをかければ、正常組織の境目や正常組織と腫瘍の境目が見えてきます。そして腫瘍を摘出しやすいように、患者さんの頭の向きと体位を設定し、術野に向かう自分の姿勢も無理なく腫瘍にアプローチできるようにすることが大切です。あとは脳圧と静脈の管理です。これらがしっかりできれば、自分のペースで手術をすることができます」

良性脳腫瘍の手術は、術前には症状がない患者さんも多く、見た目は元気で、普通に生活している人に対して手術という侵襲を加えることになるため、何らかの後遺症を出してしまうことは絶対に許されない。

腫瘍位置の確認は手術戦略の詰めに欠かせない

取材当日は、髄膜腫の74歳の女性の手術だった。腫瘍は小さく、硬膜直下の浅い部位にあったが、脳静脈の出口にあたる上矢状静脈洞という、非常に重要な血管に接している腫瘍だ。腫瘍が大きくなると静脈洞への癒着浸潤が起こり、全摘出が難しくなる症例だ。

頭蓋内状態の把握、患者の全身状態、体調環境整備、ナビゲーション、神経学的モニターの準備、麻酔管理が整えられ、全身麻酔下で眠っている患者さんが待つ手術室に現れた福田さんは、まず、モニターの情報を元に、腫瘍の位置を再確認した。

術前の体位を決める作業

「どういう手術戦略を描くかを詰めるには、確認し過ぎるということはありません」

患者の体位を左横向きにし、腕の位置を泳いでいるような姿勢にする『左Swimmer(スイマー)法』という体位にして、術者が腫瘍にアプローチしやすい位置取りをし、重力のテンションをかけて腫瘍を摘出しやすくするために、静脈の下側に腫瘍がくるように頭の向きをセットした。患者の体位を決めると、頭を固定する器具を装着した。

最善の手術にはチームスタッフの協力が必須

午前10時54分、「よろしくお願いします」の声とともに手術が開始された。

麻酔科医、モニターを管理する放射線技師、看護師らの動きは実に手際が良い。チームワークがいい証拠だ。通常、手術台前の風景といえば、執刀医の前に、前立ち(第1助手)と第2助手がいて、細かい作業をアシストするが、それらの作業も、器具出しの看護師1人のアシストのみで、すべて執刀医の福田さん自身が行っていた。

「1人でずっとやってきたので慣れっこです。でも、スタッフの協力なくしては、最善の手術は成り立ちません。放射線技師の白鳥君は、ナビゲーションシステムと神経生理学モニターの専門家ですし、看護師の植村さんは僕の手術のペースを整えてくれる熟練者です」

スタッフそれぞれが自分の仕事の重大さを弁えて、日頃の努力を惜しまないところが偉いと福田さんは話す。

1つひとつの手技を丁寧に繰り返す

切開された頭皮

腫瘍部位の露呈

モニターに映し出された患部の拡大画像

腫瘍がきれいに摘出された患部(上)摘出された腫瘍片(下)

頭皮にメスを入れた後、頭蓋骨が露出するまで、丁寧に皮膚をはがして行く。出血は全くない。骨が露出するとドリルで数カ所に穴をあけ、静脈を傷つけないように骨をはがし、脳を露出させた。超音波画像で再度腫瘍の位置を確認する。

大型の電子顕微鏡を手術台へ運び、いよいよ腫瘍へのアプローチだ。

顕微鏡を覗きながら、福田さんは、電気メスやバイポーラ、ハサミ他の器具を滑らかな手つきで使い、1つひとつの手技を丁寧に繰り返す。

腫瘍が脱落しやすいように患者の頭の位置を高くしたり低くしたりしながら、腫瘍内部に針で糸を通してテンションをかけたり、メスで腫瘍の中をくり抜いたりしながら、腫瘍との格闘が繰り返される。そして、最終局面である癒着した部分の境目をはがすところまでもっていった。

髄膜腫や神経鞘腫に代表される良性腫瘍は、正常組織との間に境界があり、手術手技の技量が摘出度と機能能力の予後に直結するのだ。腫瘍の癒着度によっては、何時間も格闘することもある。

「重大な神経や血管との癒着の場合はとくに細心の注意が必要なんです」

数回に分けて腫瘍が摘出でき、静脈洞からも腫瘍をきれいにはがすことができた。切除部分が洗浄され、血圧も確認。静脈洞についても心配なさそうだ。出血は計測できないほど少ない。直径1.4cmの腫瘍が摘出完了した。頭を閉じる準備を始めた時は、手術開始から約2時間15分だった。

「肉眼的にはほぼ全部腫瘍を摘出できました。一番危惧していた静脈の還流も問題ありませんし、脳が腫れることもありませんでした。今回の手術の目的は、将来にわたって神経所見を出さずにきちんと生活でき、腫瘍が再び悪さをしないようにする目的が達成できたと思います」

まさに、福田さんの言う〝勝ちパターン〟を体現する手術だった。

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