グローバル~ローカルまで幅広いレンジで活躍し続ける、心優しき名医

大腸がん治療の全国的な底上げを目指すオピニオンリーダー

取材・文●伊波達也
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2015年4月
更新:2015年8月

  

杉原健一 
光仁会第一病院院長/東京医科歯科大学特任教授

光仁会第一病院院長/東京医科歯科大学特任教授の杉原健一さん

大腸がん治療のオピニオンリーダーとして、臨床現場のみならず研究分野、ガイドライン作成の主導による治療指針の構築など、常に大腸がん治療の最前線で理論的な支柱としての役割を担ってきた。国際的な舞台での活躍から地域の高齢者医療まで、幅広いレンジで活躍し続ける、心優しき名医だ。

すぎはら けんいち 1948年金沢市生まれ。1974年東京大学医学部卒業。1975年東京厚生年金病院外科。1984年東京大学医学部第一外科助手。1985年英国セントマーク病院留学。1989年国立がんセンター外科。1997年東京医科歯科大学医学部外科学第二講座教授。2004年同大学院腫瘍外科学教授。2014年4月より現職。日本外科学会元理事。日本消化器外科学会前理事長。大腸癌研究会会長ほか

超高齢化社会における地域医療の大切さを痛感

大学の教授を退官後、2014年4月、地域に根づいた民間病院の責任者に着任して、約1年が過ぎた。

長年にわたって積み重ねてきた豊かな経験をもとに、地域医療、とくに地元の高齢者のために、高いQOL(生活の質)を保って、生を全うしてもらうべく、日々、メスを握るのが、東京都葛飾区にある光仁会第一病院院長で、前東京医科歯科大学腫瘍外科学教授の杉原健一さんだ。

「この病院は、近隣のお年寄りが数多く来院されます。新住民である若い人たちは、職場のある都心の大きな病院などを受診する傾向にありますが、お年寄りはやはり地元の病院がいいのでしょう。超高齢化社会における地域医療の大切さを今さらながら痛感しています」

大腸がん治療の最前線でずっと働き、治療指針であるガイドラインの作成にも中心的役割を担い、治療の選択肢が豊富で生存率も向上した大腸がんの攻略に貢献してきた。しかし、同院では、ガイドライン通りの治療からは外れるような高齢者の症例も多い。

「ガイドラインに従って行う治療は、いわゆる標準治療です。お年寄りの場合は、PS(全身状態)やADL(日常生活動作)が落ちており、また併存症などで標準治療はなかなか難しい方も多いのです。しかし大腸がんに伴う症状のつらさを取り除いて差し上げて、良いQOLで過ごしていただくことが大切です。ガイドラインには考慮しつつも、一筋縄ではいかないような症例は、これまでの経験も踏まえて、アレンジしながら、患者さんそれぞれに合った治療をしていくことが重要なのです」

取材当日は、89歳の女性に対する低位前方切除術という直腸がんの手術だった。

人工肛門にしないで肛門を温存し、腫瘍のある直腸とその周囲のリンパ節を取り、残った直腸とS状結腸をつなぐ術式だ。

患者さんは高血圧と高度の認知症があるものの、手術に関わる大きな併存症のない、年齢の割には身体的に元気な方だった。

解剖を正確に把握して剥離を行う

いよいよ手術開始

病巣部を切除した腸管

午後3時18分、全身麻酔下の患者さんと向き合い下腹部の正中切開で手術を開始した。電気メスで丁寧に切開し、3分ほどで腹腔内が露出した。腹腔内全体を観察しながら、腹腔内に手を差し入れ、腫瘍の状態などを把握した。

術野を見やすくするために、器具で固定。この手術を万全にアシストをするのは、第1助手の豊岡医師と第2助手の椙田医師。いずれも杉原さんが信頼をおくスタッフ。

数度にわたり立ち位置を変えたり、手術台を調節するなどして、最良の状態で執刀。

「この患者さんは、S状結腸の癒着している位置が普通の人と反対側で、尿管の位置も通常とは違いますね。解剖を正確に把握して剥離していかないと、余計な出血を来たします。止血を要するなど、無駄な動作が増え手術時間が延びると、患者さんの術後の回復にも関わります」

個人差があるという癒着の度合いを考慮しながら、丁寧に腸の生理的癒着を剥がしたり、神経叢を確認しながらの剥離、脂肪組織の切離、靭帯の剥離、主要な血管の切離といった、繊細な作業を次々と行いながら、直腸の切除とリンパ節郭清へ向かう。

年齢を考慮して最低限のリンパ節郭清

「このおばあちゃん、組織がしっかりしている。生命力あるね」

そう話しているうちにも手術は粛々と進む。第2助手の椙田医師が、肛門側から直腸内を生理食塩水とイソジン生理食塩水で洗浄した。その後、直腸は切離され、直腸の一部とともに腫瘍が摘出された。残った肛門側の直腸とS状結腸が吻合された。

椙田医師が手術室の隅のテーブルの上で、摘出した直腸を開き、腫瘍部分を確認。直径5cmぐらいの腫瘍があった。

摘出した腫瘍(上)S状結腸切離端の縫合(右)

通常、栄養血管の根元にある主リンパ節までを取るD3郭清を行うが、高齢者であることを考慮して、がんのある直腸に流入する血管に沿ったリンパ節を取るD2郭清に留めたという。腹腔内の洗浄を行った後、腹壁の縫合を助手に任せ、手術室を後にした。約2時間半だった。

「89歳の女性の平均余命は4~5年と言われますが、これでこの患者さんは大腸がんで亡くなることはないでしょう。QOLを保って、日常生活を送っていただけたらと思います」杉原さんは、手術がうまくいったことをそう笑顔で説明してくれた。

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