凄腕の医療人

新しい道を次々に開拓していく内視鏡のゴッドハンド

取材・文●祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2013年1月
更新:2014年6月

  

2013_01_13_01工藤進英 くどう しんえい

1947年秋田県生まれ。1973年新潟大学医学部を卒業後、同大外科で勤務する。1985年に秋田赤十字病院外科に赴任し、同年に「幻のがん」と呼ばれていた陥凹(かんおう)型大腸がんを発見。以後、膨大な症例の研究によってその存在を世界に認めさせた。2000年昭和大学教授、昭和大学横浜市北部病院消化器センター長に就任。2001年昭和大学横浜市北部病院副院長を兼務

大腸がんの中でも、陥凹型のがんは進行が早く、タチが悪い。このがんの存在を証明し、こまでが内視鏡切除の対象になるのか、その診断法をつくり出したのが内視鏡の名医・昭和大学横浜市北部病院消化器センター長で医学部教授の工藤進英さんだ。工藤さんの治療現場を覗いてみよう。

わずか5~6分で終わる早業

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ポリープを見つけ、切除する様子の現場

午後2時過ぎ。内視鏡治療室に並べられたベッドには、この日大腸の内視鏡検査を受ける患者が待機していた。周囲には、20人ほどの人だかり。海外から来た医師も混じっている。

みんな神業といわれる工藤さんの内視鏡技術をじかにみて勉強したいという人たちだ。

その中に、大柄な工藤さんが現れた。「ハイ、工藤ですよ。これから検査をしますからね」患者に声をかけると、ゼリーを塗った肛門からスルスルと内視鏡を挿入する。前回は、内視鏡の挿入が難しかった患者だというが、工藤さんは左手で腸の空気を抜きながら右手に持った内視鏡を、ときどきゆするように動かしながら挿入。わずか2~3分で内視鏡は盲腸まで到達した。

大腸粘膜の状態は、モニター画面に拡大して映し出される。5~6分で検査は終了。異常はなかったようだ。

3人目の患者で、工藤さんが初めて「色素を入れて」と指示した。ポリープが見つかったのだ。洗浄して色素を入れると組織が青く染まり、編み目のような柄が浮かぶ。内視鏡で拡大して組織の状態を入念に観察、「腺腫だね。ワイヤーを入れて」と工藤さんが指示する。

腺腫ならば良性だ。ポリープにかけたワイヤー(スネア)に通電して切除した。4人目にはなだらかな小さい隆起が見つかった。これも色素をかけて組織を観察。盛り上がりが少ないので、下に生理食塩水を注入して組織を隆起させてからワイヤーで切除した。EMR(内視鏡的粘膜切除術)という方法だ。

この日一番大きな病変が見つかったのは、5人目の患者。4㎝ほどある隆起に色素をかけて拡大、組織を観察する。通常のスネアで切除するには大きすぎるので、ふつうより固くて輪が大きい「工藤スネア」を用意。生理食塩水で隆起させた組織にワイヤーを引っかけ、何回かに分割して焼き切った。

この日、工藤さんは2時間足らずの間に13人の内視鏡検査を行い、見つかった4人の腺腫を切除した。うち1人は早期がんが混じっていたが、大きすぎて分割切除になった。「あってもmがん(粘膜内にとどまるがん)で転移はないので、分割切除でも問題ない」という。

慣れた扱いというのは、こうしたものなのだろう。誰1人痛みを訴える患者はなかった。

幻の大腸がんを発見する

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内視鏡カメラ。太さは小指くらい

大腸がんはわりあいゆっくり進行するがんと思われているが、例外が陥凹型のがん。その存在を明らかにしたのが、工藤さんだ。

かつて、大腸がんはポリープ(粘膜の隆起物)が成長してがん化すると考えられていた。ところが1977年、日本の医師がくぼんだ大腸がんを見つける。しかし、「その後も見つかるのは年に1~2例」で、とても医学界の常識を覆すほどではなかった。

しかし、工藤さんは言う。「胃も食道もメインは陥凹型のがん、なぜ大腸だけがポリープ型なのか」。

ポリープとは、隆起した突起物の総称で、ふつうは良性が多い。咽頭から食道、胃、十二指腸と消化管に発生するポリープはみな良性なのに、なぜ大腸だけポリープからがんが発生するのか。

一番心配だったのは、陥凹型は早期発見が難しいことだった。大腸がん検診の基本は、便潜血反応だ。がんとこすれて便に付着した出血の有無をみる。大腸がんは早期(粘膜か粘膜下層にとどまりリンパ節転移がない)に発見できれば、ほぼ100%治る。

しかし、「くぼんだ陥凹型があるとすれば、便とこすれないので便潜血反応では見つけにくいし、内視鏡でもわかりにくい。そうなると、進行がんになってから見つかることになってしまいます。これを何とかしなければと思ったのです」と工藤さんは語る。

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