『患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド』を解説
痛み治療はがん治療の一部。患者さんは痛みを積極的に訴えることが大事
麻薬系鎮痛薬に対する患者さんの誤解は未だに多い。そうした中、2014年に発刊されたのが、日本緩和医療学会が作成した『患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド』だ。これは、患者さんや家族に向けて初となるがんの痛み(がん性疼痛)治療に関するガイド。痛み治療はがん治療の一部であり、患者さんは積極的に痛みを訴えて欲しいと専門家は話す。
患者さん向け 初の痛みガイド
残念なことだが、がんには様々な痛みが伴う。早期でも、がんのできた部位や症状により痛みが出ることもあるし、治療が痛みの原因になることもある(図1)。
しかし、「これまで日本ではがんの痛みの治療は十分に行われてこなかった」と、弘前大学医学部附属病院麻酔科緩和ケア診療室講師/診療教授の佐藤哲観さんは語る。
その反省から、日本緩和医療学会は 2012年に患者さんに向けた痛みのガイドブックの作成を呼びかけ、これに呼応して、同学会に所属する医師、看護師、薬剤師などが多数手をあげ、佐藤さんを中心に制作を開始。約2年後の2014年6月に出版されたのが、*『患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド』だ。日本で初めて患者さんが読んでよくわかる痛みケアの案内書で、米国がん協会の *“American Cancer Society’s Guide to Pain Control” をお手本にした。
*『患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド』=編集:日本緩和医療学会、発行:金原出版 *“American Cancer Society’s Guide to Pain Control”=「米国がん協会による痛みのコントロールへのガイド」
がんの痛みは 十分訴えられていない
作成した医療従事者たちに共通の思いは、「日本のがん患者さんは医療従事者に対して、痛みを十分に訴えていない、あるいは訴えたくてもなかなか訴えられないでいる」ということだという。
「統計的にがん患者さんの7割が痛みを有するとされていますが、実際には痛みを訴えない患者さんも少なくありません。痛みを伝えていただかなければ、痛みを和らげる治療があるのに届けられません」
麻薬系鎮痛薬の消費量も日本は欧米先進国の10分の1~40分の1だ(図2)。痛みを訴えない理由は様々で「伝え方がわからないという患者さんや、せっかく治療してもらっているのに、痛いといったら治療を打ち切られてしまうと心配する患者さんもいます。『医師に厄介と思われたくない』、『我慢するのが当然』という方も。看護師や家族には痛みを訴えても、『先生には言わないで』という方もいます」
痛み治療に対する誤解や不安も大きい。「『麻薬を使ったら最後』『中毒になるのでは?』『朦朧としてものを考えられなくなる』といった思い込みが多いようです」
実際には、適切な治療を受けられればそうしたことは一切ないと佐藤さんは断言。
「痛みの治療法はかなり確立され、患者さんの状況に合わせた痛みケアができます。一方、がんは今日では早期に発見され、よい治療法も出てきているので、闘病の期間が長くなり、様々な痛みと付き合うことになる。ぜひとも痛みの治療を積極的に受けて欲しいです。痛みを我慢し過ぎると、食欲が落ちて夜も眠れず、体力を消耗し、行えるがん治療もできなくなる可能性があります。逆に、痛みがなくなると食事もでき、よく眠れて体の状態は確実によくなります。がん治療を効果的に行うためにも、痛みはしっかり取り除いたほうがいいのです」
がんと診断されたら 今後は痛みについて調査も
とはいえ、患者さんが痛みについてうまく訴えることは意外に難しい。
これに関しては、1つ朗報がある。
「がん対策基本法のがん対策推進基本計画は3年前(2012年)に第2期に入りましたが、そこで大命題としてあげられたのが『早期からの緩和ケア』です。今年度からは、少なくともがん拠点病院においてがん患者さんに対し、診断時から痛みがあるかどうか、全ての患者さんを対象に痛みに関する聞き取り調査を行うことが義務づけられることになります」
これからは、がんと診断されたら医療者が痛みについて聞いてくれるのだ。それでも、患者さんが痛みを上手に訴えるには、「いつごろから、どこが、どのように、どの程度痛いのか伝えることです。どんなときに楽になるか、どんなときに痛みがひどくなるかも大事な情報です。市販薬を含め、鎮痛薬を使っているなら、何を使っているか、効き目はどうか、副作用はないか。そして、その痛みのために生活スタイルにどんな支障があるか。家事ができない、眠れない、孫の送り迎えができない、といった情報をありのままに伝えて下さい」
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