がん性疼痛に対する神経ブロック 効果が高く副作用が少ない
がんの痛みを取り除く神経ブロック療法
安部洋一郎さん
がん性疼痛に効果を発揮するのは、薬だけではない。神経ブロックという方法がある。痛みの信号を遮断して、感じなくさせる方法だ。疼痛薬は全身に作用するため便秘や眠気などの副作用も生じるが、神経ブロックにはそれらがなく、ADL(日常生活動作)を上げる効果もあるという。
専門家が行う痛みの治療
日本緩和医療学会の『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン』を見ると、神経ブロックとは「脳脊髄神経や脳脊髄神経節または交感神経節およびそれらを形成する神経叢に向かってブロック針を刺入し、直接、またはその近傍に局所麻酔薬または神経破壊薬を注入して、神経の伝達機能を一時的または永久的に遮断する方法」と定義されている(図1)。
NTT東日本関東病院ペインクリニック科部長の安部洋一郎さんは、神経ブロックを次のように説明する。
「末梢神経から入った『痛い』という情報は脊髄を通り、脳に伝達されます。その経路に局所麻酔薬やアルコールを入れたり、高周波(マイクロウェーブ)で熱を加えて神経を破壊することで、痛みが脳に伝わらないようにすることです」
まず、神経ブロックの治療はだれが担当するのだろうか。
「私たちの病院もそうですが、最近はペインクリニック科が置かれており、専門の医師が担当する病院が少なくありません。病院によっては、麻酔医が対応するところもあります。いずれも、がんそのものの治療とは別に行う、あくまで痛みを和らげることが目的の治療です」
当然ながら、主治医に相談し、紹介してもらうことが基本だ。
「私たちはその患者さんがどのようながん治療を受けているか、その過程でどのような痛みが出ているか、正確に把握する必要があるからです」
神経付近に針を刺す治療に不安を感じる患者さんも多いかもしれない。
「確かに技術の求められる治療ですが、例えば、硬膜外ブロックという、背骨にチューブを留置する治療では、血液を固まらせないようにする薬剤である抗凝固薬を飲んでいても、事故は17万件に1件と言われています。また、近年は、狙った神経に針が届いているかどうか、針の位置をレントゲンや超音波(エコー)で確認しながら治療が行われるので、有効性と安全性は適応があれば極めて高くなっています」(図2)
内臓痛や神経障害性疼痛など様々な痛みに効果
では、がん治療において、神経ブロックが適応となる痛みとはどのような痛みなのだろうか。ガイドラインでは以下のように示している。
❶膵がんなど上腹部腹腔内臓器による腹痛・背部痛などの内臓痛
❷直腸、前立腺、子宮頸部などの骨盤内臓器による内臓痛
❸転移に伴う体動時痛
❹攣縮(筋のけいれん)の痛み
❺神経障害性疼痛
❻消化管ぜん動に伴う痛み
❼入浴により緩和する痛み(交感神経ブロックが適応)
これらの痛みにはどのようなブロック法がとられるのだろうか。
「針を刺してアルコールやフェノールを入れ、神経の機能を止める方法や、熱を与えて、神経を破壊する高周波熱凝固法が中心です。これらはいずれも効果は数カ月持続します。破壊された神経も数カ月すると再生してくるため、その時点で再び神経ブロックを行います(表3)。
当院では最近、神経を破壊せずに痛みを抑えるパルス高周波法を使う機会も増えています。そのほか、背骨の硬膜外にチューブを留置し、皮膚の下に薬液を入れるポートを設置して、オピオイドを持続的に注入する方法が選択されることもあります」
内臓痛はアルコールによるブロックで取り除く
どのようなブロック法を選択するかは、痛みの種類による(表4)。例えば、内臓痛。これは、消化管や肝臓、腎臓などの臓器の痛覚が刺激されて起こる痛みだ。内臓の大動脈の周りには、内臓神経は神経叢という神経の集まりを形成しながらその集まりと集まりの間を網目状に神経が配置されている。その神経経路にアルコールを満たすことで内臓痛を遮断する。
「オピオイドだけでは取れにくい内臓痛には神経ブロックはかなり早くから行われてきました。アルコールなどの薬液を使うのは、まとまった領域に幅広く薬が届くからです」
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