オピオイドを適切に使うことで元気になり、意欲的に化学療法に取り組める
疼痛コントロールはがん治療の早い時期から始めるのが効果的
蒲生真紀夫さん
疼痛治療の必要性は徐々に認識されるようになってきたが、まだ十分とはいえない。痛みの状況に合わせ、早い段階からでもオピオイドを使うことが大切だ。適切な疼痛治療が、化学療法に好影響を及ぼすこともある。
オピオイドの消費量はアメリカの10分の1
がんの患者さんに対し、十分な疼痛治療が行われていないということが、ここ数年話題になってきた。それによって、状況が少しずつ改善していることは確かなようだ。しかし、まだ十分ではないと、みやぎ県南中核病院副院長の蒲生真紀夫さんは指摘する(図1)。
1990 | 1995 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
モルヒネ(kg) | 175 | 528 | 733 | 775 | 841 | 775 | 699 | 562 | 511 | 436 | 382 |
フェンタニル(g) | 156 | 1,069 | 1,021 | 694 | 1,468 | 3,926 | 11,822 | 12,132 | 14,677 | 18,607 | 18,155 |
オキシコドン(g) | 157 | 251 | 15,959 | 84,114 | 185,490 | 234,831 | 284,669 | ||||
モルヒネ換算(kg)* | 201 | 706 | 903 | 891 | 1,086 | 1,430 | 2,694 | 2,711 | 3,236 | 3,890 | 3,835 |
「必ずしも日本だけではないようですが、がん性疼痛の治療というと、終末期医療で行われるものというイメージでとらえられがちです。終末期にはもちろんですが、もっと早い段階から痛みの治療が必要になることはいくらでもあります。そういうケースでの疼痛治療は、まだかなり足りないのではないでしょうか。私は現状をそうとらえています」
モルヒネなどの医療用麻薬を総称してオピオイドと呼ぶが、人口当たりのオピオイド消費量で比較すると、日本はアメリカの10分の1、ドイツなどヨーロッパ諸国の5分の1程度しか使っていないと言われている(図2)。ここ2~3年、疼痛治療の必要性が叫ばれるようになってはいるが、まだまだ十分とはいえないようだ。
患者さんの遠慮によって痛みの実態が伝わらない
理由はいくつかある。1つは、患者さんが感じている痛みが、医師に正確に伝わっていないことである。たとえば、痛み止めの薬を処方した後、「痛みはどうですか」と医師が聞いてきたとき、まだ痛みがあっても、「まあまあです」などと答えてしまう患者さんが多い。
「患者さんにしてみると、せっかく先生が出してくれた薬なので、効いていないとは言いにくい、不満を訴えていると思われたくない、という心理が働いてしまうのでしょう。医師との関係を悪化させたくない、見捨てられたくない、という防御的な気持ちもあって、まだ痛みがあることが、医師に伝わらなくなってしまうのです」
こうした事態を解消するためには、患者さんが痛みをしっかり伝えることが大切だ。さらに、医師の側も、「まあまあです」と言われたときに、「本当はもっと痛みが取れたほうが楽なのではありませんか」という具合に、1歩踏み込んだ質問をすべきだと蒲生さんは言う。
また、患者さんたちは、医師には「まあまあです」と言っていても、看護師や薬剤師などの医療スタッフには、本音を語っていることが多い。こうした本音の情報が、医療スタッフを経由してきちんと医師に伝わるシステムができれば、痛みに関するコミュニケーションギャップはかなり解消できる、と蒲生さんは考えている。
がんの疼痛治療が十分行われていないもう1つの理由は、オピオイドに対する根強い拒否反応である。医療用とはいえ、麻薬の一種なので、依存性があるのではないか、連用していると廃人になってしまうのではないか、といった心配である。もちろん、そんなことはないのだが、気にする人は多い。
「私は最初にオピオイドという言葉を使います。『痛みを取るオピオイドという薬があって、がんの痛みにはとくによく効きます』という話から始めるのです。『どんな薬ですか』と聞いてきたら、そこで医療用麻薬という言葉を出して説明し、最後にモルヒネの仲間であることを話します。いきなりモルヒネとか、医療用麻薬という言葉を出すと、バリアを作ってしまう人が多いのですが、この方法だと説明を聞いてもらえますね」
医師と患者がきちんとコミュニケーションを取ることができれば、オピオイドに対する誤解は、かなり解消できそうだ。
薬を飲むことができるなら経口剤が最も簡単で確実で安全
がんの疼痛治療に使われているオピオイドには、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルという3種類の薬がある。
モルヒネとオキシコドンには、飲み薬の徐放製剤があって、これが痛みの治療で中心的な役割を果たしている。徐放製剤というのは、ゆっくり少しずつ効いていく薬のことで、1日に2回、あるいは1回の服用で、効果が持続するように作られている。1日2回の薬なら、たとえば午前8時と午後8時に服用することで、薬の血中濃度を一定以上に保てるのである。
ただ、徐放製剤を服用していても、突発的な痛みが起こることがある。そうした場合には、速効性のあるオピオイドによるレスキュー投与が行われる。レスキューに用いられる即効性経口剤にはモルヒネとオキシコドンが、注射剤にはモルヒネとフェンタニルがあり、モルヒネには坐剤もある。
フェンタニルは主に皮膚に貼って皮膚から薬を吸収させる貼付剤(パッチ剤)として用いられ、3日間効果が持続する。パッチは温められることによって体内に吸収される薬の量が増えるので、そのため、入浴・日光浴・暖房器具の使用に際して注意を要することがある。また、病態によっては注射製剤の持続投与が選択されることもある。
これらのオピオイドを、うまく使い分けていく必要がある。
「食事ができて、薬を飲むことができる人なら、経口剤が使いやすいと思います。消化管から吸収させるというのは、生理的に自然なルートですし、簡便なのも長所です。また、時刻を決めて服用することで、患者さんに自己管理意識が芽生えるのもいい点だと思います」
モルヒネとオキシコドンの経口剤があるが、モルヒネは重度の痛みからが対象であるのに対し、オキシコドンは中等度から重度の痛みまで使用できるのが特徴だ。また、モルヒネは腎臓から排泄される代謝物にも作用があるため、腎機能が低下している人には使いにくい。その点、オキシコドンは肝臓で代謝されたあとは作用が弱まるため、高齢者など腎機能が低下している場合にも使いやすいという。
「貼付剤は、消化器がんで食事がとれないような患者さんには適しています。また、認知症などで自分で薬の管理ができない場合にも、介護者が背中など剥がしにくい場所に貼ることで、疼痛治療がうまくいくことがあります」
このように、経口投与を基本にしながら、患者さんの状況に応じて、使いやすい薬を選択することが大切だ。
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