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痛みをなくすレポート(4)痛みが取れたら何をしたいか

監修:小山富美子 市立池田病院緩和ケア等対策室長(がん看護専門看護師)
取材・文:塚田真紀子
発行:2005年11月
更新:2013年7月

  
小山富美子さん こやま ふみこ
大阪逓信病院高等看護学院(現NTT西日本大阪病院高等看護学院)を卒業し、同病院に勤務。2000年神戸市看護大学看護学部卒業。2002年大阪府看護大学大学院博士前期過程のがん看護CNSコースを修了し、市立池田病院に就職。医療安全・質管理部緩和ケア対策室長に。2003年がん看護専門看護師に認定される。
市立池田病院
緩和ケア等対策室長の
小山富美子さん

鎮痛薬の量が足りない?

敏江さん(仮名、50歳代)のがんは腰椎に転移していた。放射線治療を受けるため、市立池田病院に転院してきた。

彼女は寝返りを打てないほどの痛みを抱えていた。少しでも動くと痛みが走り、治療時以外は寝たきりの状態だ。医療用麻薬(オピオイド)*1)のMSコンチン錠(一般名硫酸モルヒネ徐放剤)が処方され、一般の痛み止めを不定期にのんでいた。

看護師は「痛みのアセスメントシート」(*2)に沿って、Bさんから痛みについて詳しく話を聞いた。敏江さんは「痛みのスケール」(*3)で最もひどいレベルの痛みを訴えた。主治医はMSコンチン錠とともに一般の鎮痛薬も定期的に処方した。これは、WHO方式がん疼痛治療法*4)でも推奨されている併用だ。また、同時に“頓服”の役目をレスキュー*5)として塩酸モルヒネ内用液5ミリグラムを処方した。

それでも敏江さんの痛みは改善しない。担当の看護師とリンクナース*6)は神経性の疼痛が十分緩和されないと考え、主治医に相談した。その結果、主治医が麻酔科医へコンサルトしフェンタニルパッチと神経因性疼痛に対する補助剤が処方された。5~6日後、ある程度痛みは軽減したが、まだ敏江さんは太ももに走る鋭い痛みに悩まされていた。

その日、看護師・洋子さん(仮名)は、これまでの経過から塩酸モルヒネ内用液の使用回数が足りないと感じていた。敏江さんの痛みを聞きながら1時間空けて2回塩酸モルヒネ内用液(10ミリグラム)を服用してもらった後、緩和ケアチーム*7)の小山さんに相談した。

「痛みがおさまるまで、塩酸モルヒネ内用液の量を増やしていけば効果が出てくると判断しました。どう思われますか?」

レスキューの回数を重ね、ついに痛みが軽減

洋子さんからの相談に対し、副作用出現の状況とその後の観察方法を確認し「それでいいですよ」と小山さんは答えた。

洋子さんは病棟に戻り、敏江さんに、「効いてくるまで量を増やしていきましょう」と話した。敏江さんは、半信半疑だった。

「痛み止めはあまり効かないの。できれば、もう薬は増やしたくないんやけど……」

それでも洋子さんの熱意に押されて、敏江さんは1日6回、塩酸モルヒネ内用液を服用した。すると5時間後、足を動かしても痛くないほど痛みが和らいだ。その夜、敏江さんは久しぶりに朝まで眠ることができた、という。

洋子さんが「まだ塩酸モルヒネ内用液の量が足りない」とピンときたのは、眠気などの副作用が出ていなかったからだ。「疼痛治療プログラム」(*8)を熟読していて、塩酸モルヒネ内用液の使用法を理解していたから、適切な使い方ができた。

この報告を受けた主治医は、やはり薬の量が少なかったと判断し、1回当たりの塩酸モルヒネ内用液を最初の4倍の20ミリグラムに増量することにした。オピオイドは痛みがなくなるまで増量することが大切なのである。そのためには、痛みを遠慮なく医師や看護師に伝えることが重要だ。

翌日、敏江さんが目覚めると、痛みはさらに和らいでいた。敏江さんが洋子さんに言った。

「昨日よりもマシになりました。今日も痛み止めもらえますか? 痛みをゼロにしたいわぁ」

入院以来、敏江さんが初めて見せた、穏やかないい顔だった。


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