痛みをなくすレポート(2)痛み治療の米国見聞記
患者の立場に立って、痛みは徹底して取り除く

佐藤一彦 防衛医科大学病院
発行:2005年3月
更新:2013年7月

  
佐藤一彦さん

1年間アメリカの医療現場で実地医療を学んできた防衛医大第1外科の佐藤一彦さん

アメリカ有数の、ハーバード大学の関連病院、マサチューセッツ総合病院(MGH)の疼痛緩和チームに防衛医科大学第1外科医師の佐藤一彦さんが加わり、1年間にわたって研修してきた。

アメリカの医学を学んでくる人は多いが、医療でもっとも大事な臨床の現場で実地医療を研修してくる人は少ない。

彼我の違いに戸惑いながらもその臨床現場で見聞した貴重な体験は、日本の疼痛緩和医療に一石を投じる貴重なレポートでもある。

佐藤さんの1年間の集大成とも言えるアメリカ医療の現場報告をお届けする。


ボストンにあるマサチューセッツ総合病院の建物
ボストンにあるマサチューセッツ総合病院

マサチューセッツ総合病院(MGH)は、麻酔関係を含めて全米でも超一流の医療が受けられる病院として知られる医療施設です。

私のオフィスは、ダナ・ファーバーがん研究所にありました。当初は政府の機関や臨床試験の立ち上げなどに立ち合ったりしていましたが、MGHのチーム医療にも興味があったので、主にこの2つの施設を行き来して、2003年10月からちょうど1年間、多くの現場で見聞を広めてきました。

私はもともと乳がんの専門医ですが、がんの痛みについてはこれまで専門的に学んだことはありませんでした。しかし、チーム医療を学ぶ上で大切で、私自身の課題でもあることから、MGHのペイン(疼痛)チームで活動を始めました。

ペインチームには慢性疼痛と急性疼痛の2チームがあり、私が担当したのは、多くががん患者を対象とした慢性疼痛チームです。毎週月曜日と火曜日にこの慢性疼痛チームに参加し、金曜日は緩和ケアチームを回りました。

ボストンにあるマサチューセッツ総合病院の建物

ペインチームの医師及びナースは20人ほどで、それ以外に事務や医療機器の技術者を加え、総勢約30人で構成されています。慢性疼痛チームでは、MGHに入院中の痛みを訴える全患者さん、とくにその管理に苦渋している方の病室を毎日回ります。通常、フェロー(専門研修医)とナースプラクティショナーがペアを組み、それに教育・指導を行う専門医や研修医、医学生が加わり、4~5人でチームを作ります。ナースプラクティショナーは、看護師の資格を得てから3年間のマスターコースを経て資格を取得します。医師に準じた診療行為を行うことができます。もちろん、日本には存在しません。

痛みに対して大げさに訴えるアメリカ人を見習うべき

アメリカの患者さんは、痛みに対して日本人から見れば大げさなぐらいに訴えます。

食道がんの放射線照射による原因で痛みを訴えていた患者さんを訪問したときのことです。入院下でのがん治療の様子を写真に収めたいと思い、その部屋の写真を撮ることを願い出ようと思いました。しかし、その方がものすごく痛みを訴えるために、断念して別の病室へ向かいました。

しばらくすると、あれほど痛がっていた患者さんが平然と廊下を歩いているんですね。そこで改めて彼女の病室をたずね、撮影を依頼したところ、「大丈夫、どうぞどうぞ」と言うんです。さっきはあれほど痛がっていたのに、この急変はいったい何なのか。

この方に限らず、ここでは患者さんが「痛くない」というまで、あらゆる手段をもって徹底的に対応するのです。その代わり、訴えがなければ何もしてくれません。

もちろん、正確に痛みの程度を表現しないと治療のやりすぎにつながる恐れもあります。しかしながら、彼らは痛みをとる専門家であり、これがアメリカの疼痛治療の臨床現場です。だからこそ患者さんは痛みに対してオーバーなくらいに訴えるわけです。

多少の痛みは(中にはかなりの痛みでも)我慢する日本人とは大きく違うなと感じる反面、ある意味で日本の医療現場に導入すべき面でもありました。

患者さんが痛みを訴えれば、チームはその痛みの原因を徹底的に調べます。それだけ時間もかかります。朝8時から19時ぐらいまで、12時から1時間の休憩(この間にランチを取りながらの検討会が行われます)を除いて、各病棟をひたすら回ります。

1日で15人ほどの患者さんを診て回ることになりますが、1人に対して30分以上は時間をかけます。ですから、途中でコーヒーを飲む暇もなく、コーヒーカップを持ち歩いてナースステーションで立ち飲みしています。午後に新患の依頼が入りますが、4~5件入った場合は忙しさはさらに増していきます。

痛みを徹底的に究明する患者との一問一答

病室を回るMGHのペインチームの面々
(右がナースプラクティショナーのアナベル・エドワーズさん。その左隣からフェロー、指導医、医学生の順)

患者さんから痛みの原因と治療の様子を徹底的に究明するペインチームの診療の様子

チームのスタッフ一同が集まって患者さんの治療を検討するカンファレンス(検討会)

アメリカでは、痛みの原因を十分に診断します。日本では、「痛い」といったら、すぐに鎮痛薬で痛みを抑え込もうとしますが、向こうでは、組織の障害に伴う痛みと、神経の障害による痛み(神経因性疼痛といいます)とに最初にはっきりと分けます。徹底した問診と身体所見を得た後、CTやMRIといった画像診断を用いて、その痛みの原因を明らかにします。撮っていなければすぐに指示を出します。たとえば神経因性疼痛であれば、ニューロンチン(一般名ガバペンチン)という抗痙攣薬を鎮痛補助薬として積極的に使います。また、疼痛の原因を明らかにするため、鎮痛に有効と思われるその他の手段も患者さんごとに考えます。この点は日本も見習わなくてはなりません。

疼痛緩和チームがいかに痛みを徹底的に究明しているか、その臨床現場を紹介しましょう。

まず、今までの痛みに対するすべての要素を患者さんと話し合います。この場合、痛みの強さを10段階に分けて表現してもらいます。また、どこが痛いのか、それはどういったタイプの痛みなのか、いつ痛いのか、痛みはどういうときに増強、あるいは減少するか、たとえば体を入れ替えたときに痛みがどう増減するかなど、痛みの性質を徹底的に探っていきます。

痛みの範囲も詳細に検討し、打腱器なども使って、痛みの領域がどこに存在するのか、どこの神経から来ているのかなど、身体所見をくまなく取ります。神経支配のチャートを参照し、痛みの原因はどの神経に由来するのかまで、しつこいくらいに一問一答、逐一確認していくわけです。それが終わると、今受けている治療内容について説明をし、現在の痛みを取るために考えられる手段をいくつか説明していきます。

しかし、多くの患者さんが治療方針について様々な要望を言ってきます。あの薬はいやだとか飲みづらいだとか。注射はいやだとか細粒状のものだったら大丈夫だとか、患者の要望もさまざまです。ペインチームもさまざまな投与法に基づいた薬剤を取り揃えているため、ほとんどの患者さんの要望にこたえることができました。

そして、最終的に患者さんが納得したところで、それらをカルテに書きます。ただし、ペインチームは処方する権限はありません。あくまで提案を行うだけ。実際には、メインチームの、たとえば内科であればその担当医が処置するわけです。

神経因性疼痛=神経の損傷や圧迫などからくる慢性痛の痛み


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