広島県緩和ケア支援センターデイホスピス 症状や不安をとり、人との交流を楽しむ国内第1号のデイホスピス

取材・文:守田直樹
発行:2007年4月
更新:2019年7月

  

「日帰り緩和ケア」と「ホスピスケア」のエッセンスを融合し、患者の在宅生活をサポート

写真:緩和ケア支援センター

「緩和ケア支援センター」の中はリラックスできる空間が広がっている

「緩和ケア」という言葉に抵抗のない人はいないといっても過言ではない。
「緩和ケア病棟」と聞くとなおさらだろう。がんになった時点で精神的痛みや社会的痛みなど、なんらかの痛みを患者は抱えるとされ、早い段階から専門家による「全人的な緩和ケア」の必要性が叫ばれているものの、まだ遥か壁は高い。

想像と違った緩和ケア

「私は緩和ケアをちゃんと理解していなくって、いやだいやだとずっと拒否していたんです。でも、マッサージを受けると楽になるし、みんないい人たちなので、来るのが楽しみになっています」

こう話すのは、小林聡子さん(63)=仮名。最初、小林さんも「緩和ケア」という言葉自体に強い抵抗感を持っていたが、いまは「デイホスピス」に通うのを楽しみにしているという。

小林さんが乳がんの手術をしたのは50歳のとき。その5年ほど後にはリンパ液がとどこおるリンパ浮腫も発症した。60歳まで福祉関連の職場で働き、退職後には顕微鏡下で行うリンパ浮腫を改善する最新手術まで行った。その矢先、2006年2月に骨転移による骨折に見舞われた。

「総合病院に行くと、もうめちゃめちゃ言われましたから。痛かったので『入院させてください』って頼んだら、『ここは手術せんと入れませんよ』って。本当にめちゃめちゃ言われたんです」

怒りに震えながら続ける。

「採血のためにリンパ浮腫で腫れた腕を出すと、『こんなん血管は出ませんよ』って看護師が言うんです。乳がんになるまでは、人のためと思って毎年4回も献血をしてきたんですよ、それなのに……」

あとで伝え聞いたところでは、小林さんは医師から「尊厳死もありますよ」という言葉まで投げつけられたそうだ。

しかし、すべてを諦めかけて行った県立広島病院の緩和ケア科の外来で、ドクターから予想外の言葉が返ってきた。「歩けるんだから大丈夫ですよ。抗がん剤治療を受けてみませんか」と、提案されたのだ。

「しょうがないから、もう覚悟しなくちゃいけないと思ってここに来たんですが……本当にうれしかった」

いまは2006年7月にスタートした同院の「臨床腫瘍科」で治療を受けながら、別棟にある「広島県緩和ケア支援センター」内のデイホスピスにも週に1度自宅から通っている。

小林さんは夫との2人暮らし。病院への送迎はもちろん、リンパ浮腫によるむくみを抑えるバンテージ(弾性包帯による圧迫)も毎晩手伝ってくれているという。

「主人はまだ仕事をしていますが、もし私が元気だったら、退職して田舎でスローライフを楽しんでいると思う。でも、私がこんなだから辞めろとも言えなくて……主人の息抜きにでもなればと思っているんです」

四六時中顔をつき合わせているより、別々の時間も必要だろう。「ケンカばっかりですよ」と小林さんは笑って言うが、夫への感謝の気持ちは伝わってきた。小林さんは、将来についてこう話す。

「自宅におれれば自宅のほうがいいんだけど、家族は主人しかいないからねえ。いまはフワフワしていますが、もうちょっとね、家のなかも整理してからにね、したいんです」

深刻な言葉をつむぎながらも、隣に座っていた「緩和ケア支援センター」室長の阿部まゆみさんの笑顔を見ると、ふっと小林さんが表情をやわらげるのが印象に残った。

イギリスに20年遅れをとる緩和ケア

写真:阿部まゆみさん

緩和ケア支援センター室長の阿部まゆみさん

小林さんにリンパマッサージをする阿部さんは、センターの中心的役割を果たしてきた。センター開設時の2004年9月、同時に国内第1号のデイホスピスも併設された。阿部さんは、その役割をこう説明する。

「きちんとしたサポートさえあれば、お家にいて普段どおりの生活ができる方はたくさんおられます。『日帰り緩和ケア』と『ホスピスケア』のエッセンスを融合した支援を行い、患者さんの在宅生活を支えるのがデイホスピスなんです」

緩和ケアに精通した看護師や医療ソーシャルワーカーなどとボランティアが共働し、さまざまなプログラムを用意している。月1回のコンサートなどのイベントのほか、絵手紙や手芸、音楽療法、さらにはリンパ浮腫に苦しむ患者さんに対し、阿部さんらがリンパマッサージも行っているのだ。

阿部さんは神奈川県出身。国立病院で看護師として働いた後、イギリスに渡る。英国で看護師の免許をとり、近代ホスピスの礎とされるセントクリストファーホスピスでも3年間勤務するなど、足かけ9年緩和ケアなどを学んできた。

写真:阿部さん

阿部さんは、イギリスでリンパマッサージの技術を学んできた

「最初にイギリスで看護ボランティアをしたときに出会った患者さんたちの表情が、日本とまったく違うのに驚いたんです。痛みが無く、家族ともいい時間が過ごせて、お見送りする前日までトイレにもご自分で行かれる。ここの医療を学びたいと思ったんです」

帰国後、広島県がデイホスピスに取り組もうとしていることを知り、開設準備段階からさまざまなことを提案してきた。

「日本の緩和ケアは、イギリスに20年遅れている状態です。総合病院から退院された方たちが、本当に悪くなってからでないと緩和ケアを受けられない。だから、デイホスピスのようなところでの症状マネジメントが必要なんです」

デイホスピスが開かれるのは、火曜と金曜の週2日。外来の患者さんや緩和ケア病棟に入院する患者さんが自由に参加できる。利用目的をたずねたアンケートでは、(1) 症状コントロール、(2) 利用者との交流、(3) 不安の緩和の順で多いという統計が出た。

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