シンポジウム「がんリハビリテーション治療の最前線」から

がんリハビリテーションのあり方について それぞれの立場から現況報告

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年3月
更新:2014年6月

  

右から田沼明さん、辻哲也さん、井上順一朗さん、大野綾さん、前田絵美さん、佐藤義文さん

前号(2月号)に引き続き、昨年(2013年)10月に京都市で開かれた第51回日本癌治療学会学術集会でのがんのリハビリテーションに関する話題を取り上げます。

シンポジウム「がんリハビリテーション治療の最前線」では、がん緩和ケアチームに所属して、がんの治療を最前線で支えている医師、看護師、理学療法士がそれぞれ専門の立場から、がんリハビリテーションにどのようにかかわっているかについて報告しました。

がんリハビリテーションの目的、現状と今後の方向性

日本ではまだ発展途上にあるがんリハビリテーション(リハビリ)の研究だが、昨年(2013年)4月に「がんのリハビリガイドライン」が策定されるなど、がんリハビリに対する関心が高まりつつある。

慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室准教授の辻哲也さんは、がんリハビリの目的やわが国の現状、今後の方向性を紹介した。

がんリハビリの目的は病期によって異なる。

日本でのがん患者数は2015年には533万人に達すると言われており、今後ますますがん患者に対するリハビリの重要性が増すことが考えられる。

がんリハビリの目的は病期によって異なる。❶がん発見から治療開始前までの早期に予防的に行われるもの❷治療開始後に治療による後遺症からの回復などを目的とするもの❸再発・転移後に運動機能の維持や改善を目的とするもの、そして❹末期において患者の要望を尊重しながらQOL(生活の質)の高い生活が送れるような援助を目的とするものである。

がん患者は、治療の副作用による痛みや全身倦怠感、食欲低下による栄養状態の悪化、睡眠障害や精神的ストレスによるうつ状態や意欲の低下などにさらされている。これらの症状により患者は活動的ではなくなり、廃用症候群に至る可能性が高まる。

実際に術後や放射線・化学療法中の患者の70%、治療後の生存患者の30%において、疲労感や運動能力の低下、体力や持久力が以前の状態に戻らないなどの問題を抱えている。

これらの患者のQOLと日常生活動作(ADL)の向上、疼痛の緩和などを目標としてリハビリが行われる。このリハビリにより、末期がんの患者おいてもQOLやADLだけでなく、精神的な改善が見込まれるという。

廃用症候群=安静状態が長期に続くことによって生じる、様々な心身の機能低下などをいう

教育プログラム、リハビリガイドラインなどが整備される

このようなリハビリの効果が期待されて、2006年6月に成立した「がん対策基本法」では、患者のQOLの向上やがん専門スタッフ育成などが盛り込まれたが、現時点でその目標が達成されているとは言い難い。

そうした中で、2007年からはリハビリチーム向けのがんリハビリ研修プログラム(CAREER)が開始され、さらに、2013年の4月には辻さんらが中心となり、「がんのリハビリテーションガイドライン(第1版)」が策定された。

同ガイドラインでは、がんの原発巣や治療法ごとのリハビリの実際や、進行がん・末期がん患者への対応などがまとめられており、今後、リハビリ治療の基本的な指針となる。このような方策の実行により、全国の拠点病院で均一で質の高いリハビリ治療が可能になってきている。

辻さんは「今まではがんの治療を第1に考えてきていたが、これからはリハビリによりQOLやADLの向上、心のケアや症状緩和を目指し、それに加えてがんの治療を終えた患者の社会復帰の支援も考えなければならない」と述べている。

多職種医療チームで合併症予防と早期の退院・社会復帰を目指す

術後に生じる各種の合併症や、長期の寝たきり状態による廃用症候群は、院内死を招いたり、日常生活・社会への復帰を遅らせる原因となる。

神戸大学医学部附属病院リハビリテーション部の井上順一朗さんは、術前後での医療チームによる予防的なリハビリによる合併症の予防や、早期の社会復帰への有用性を具体的な症例を示して紹介した。

リハビリ介入で 術後呼吸器合併症率が大幅に低下

食道がんでは、開胸・開腹手術を受けた患者の5%~30%、胸腔鏡下食道切除術を受けた患者の23.2%~28.9%で術後呼吸器合併症(PPCs)がみられるという。また開胸・開腹手術の場合、院内死の45.5%~55.0%は同合併症が原因であると言われている。

この合併症を予防するためには、主治医、麻酔科医、病棟看護師、ICU(集中治療室)看護師や理学療法士の多職種からなる医療チームによる呼吸リハビリが重要となってくる。

医療チームによるリハビリ介入前と介入後を比較した結果では、術後呼吸器合併症の発症率が介入前の16.2%に対して介入後は4.3%と減少

また、術後歩行できるまでの日数は、介入前の5.1日に対して介入後は3.5日と短縮していることが示された。

さらに、合併症予防には早期離床が必須であるが、術後早期にリハビリを開始することによりその達成が可能となることが明らかになった。

造血幹細胞移植後の廃用症候群予防に有用

造血幹細胞移植では、移植前大量化学療法や放射線治療、移植後合併症、クリーンルームでの安静など特殊な条件が重なるため、廃用症候群をきたす可能性が極めて高い。

移植患者の40%が身体機能の回復に1年を要し、30%は体力低下のために職場復帰に2年が必要となっている。

廃用症候群の予防には、治療期間中に患者の身体活動量を維持・向上させるために、リハビリを行う必要がある。リハビリ導入前後において、患者の移植前・移植後の歩数を比較すると、リハビリ導入後の方が明らかに身体活動量が向上し、身体機能が改善していた。

井上さんは「がん患者に対するリハビリにおいては、医療チームの介入により高い効果が見込めるため、チーム内での情報共有、リスク管理、積極的なリハビリ介入が重要となる。

また出来るだけ早期に予防的にリハビリを行うことで患者の負担を減らし、早期退院・社会復帰を目指すことができる」と述べている。

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