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がん疼痛治療に新たなオピオイドの潮流

メサドン、フェンタニルレスキュー製剤は痛みの治療を変えるか?

監修●大坂 巌 静岡県立静岡がんセンター緩和医療科部長
取材・文●町口 充
発行:2014年4月
更新:2014年7月

  

「新薬の登場で選択肢が広がり、最適な個別化治療の提供も
可能に」と語る大坂巌さん

がんの痛みの治療に新しい流れがやってきた。昨年(2013年)、疼痛治療の新規オピオイド薬剤が相次いで登場してきたのだ。1つはモルヒネでも効かなくなった場合に有効なメサドン。さらに、突出痛に有効な粘膜から吸収されるフェンタニルのレスキュー製剤。どんな薬なのか?

治療の基本はWHOの3段階除痛ラダー

かつて痛みなどを取り除く緩和ケアは、終末期の患者さんに対するものとされた時代もあった。
しかし、現在では、がんと診断されて治療が開始された段階から積極的に取り組まれるようになっている(図1)。

図1 オピオイド鎮痛薬による疼痛治療の考え方 WHO方式がん疼痛治療法

「医療用麻薬適正使用ガイダンス」(厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課)より引用

痛みに対する治療のガイドライン(指針)としてWHO(国際保健機関)が示したのがWHO方式の3段階除痛ラダーだ。静岡県立静岡がんセンター緩和医療科部長の大坂巌さんは次のように語る。

「基本的にはこのラダーにのっとって治療しています。ただし、痛みというのは非常に個人差があるので、このラダーを基本としつつも、単純に段階を追うのではなく、痛みの程度によって使い分けています」

3段階除痛ラダーのステップ1で推奨されているのはNSAIDs、アセトアミノフェンなどの非オピオイド。NSAIDsは非ステロイド性の消炎鎮痛薬であり、アセトアミノフェンはアスピリンと同等の作用を持つといわれる解熱鎮痛薬だ。

よく使われるのはNSAIDsだが、最近ではアセトアミノフェンの使用も増えている。これは、従来は使用できる用量に制限があり、1日1500㎎までしか使えなかったのが、2011年から欧米並みに1日4000㎎まで引き上げられたためだ。

「確かに、NSAIDsには腎障害や胃腸障害などの副作用があり、使いづらい面があります。それよりはこうした副作用の少ないアセトアミノフェンを積極的に使っていったほうが、患者さんにとってはやさしいかもしれません」

と語る大坂さんは、次のようにも指摘する。

「ただし、痛みが強い場合は最初からモルヒネなどのオピオイドを使うこともあります。例えばステップ2は、以前は非オピオイドで痛みが取れなければ弱オピオイドのコデインとかトラマドールを使うとされていました。これらの薬を使っても痛みが取れなければ、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどの強オピオイドを使うという流れでしたが、NSAIDsで効果がなければ、モルヒネ、オキシコドンなどを使うことも多いです」

モルヒネ=商品名MSコンチンなど コデイン=商品名コデイン、リンコデ トラマドール=商品名トラマール
オキシコドン=商品名オキシコンチン、オキノーム フェンタニル=商品名フェンタニル/デュロテップ・パッチ貼付薬 ジヒドロコデイン=一般名、商品名同じ

治療薬が増えて 広がる選択肢

表1 がん患者の痛みに用いられる基本薬のリスト

1 オピオイドは2群に分けられる。軽度から中等度の強さの痛みに用いるオピオイドと中等度から高度の強さの痛みに用いるオピオイドである。実地目的の分類で、臨床使用の経験に基づいた分類である。
2 抗うつ薬と抗けいれん薬は、神経障害性の痛みによく使われる薬である。
3 コルチコステロイドは、神経圧迫、脊髄圧迫、頭蓋内圧冗進による痛みに効果がある。骨転移痛に対しては非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)に代用または併用してもよい。NSAIDsと併用すると副作用としての胃の障害や体液貯溜の危険性が高まる。
「医療用麻薬適正使用ガイダンス」(厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課)より引用

このように使い分けが進んできた背景には、新しい疼痛治療薬が次々と登場して、選択肢が増えてきたということもあるようだ。

かつてはオピオイドといえばモルヒネ一本槍だったのが、2000年をすぎてからオキシコドン、フェンタニルが使えるようになり、10年にはトラマドールも加わって、様々なオピオイドが登場するようになってきた(表1)。

「それだけに、それぞれの薬の特徴を生かした使い方が重要になっています」と大坂さんは語る。

「例えばモルヒネには、副作用として便秘になりやすいという問題があり、患者さんにとっては悩みのタネとなることが多い。これに対して同じ強オピオイドでも、フェンタニルは便秘がどちらかというと少ないと言われているので、こちらを使うことも可能です。また、患者さんによってはほかの薬ではだめだったがモルヒネだと一番痛みが取れたとか、モルヒネを使っていても便秘になりにくかったとか、効き方や副作用には個人差があるので、その人に合った薬を選ぶ必要があります」

使うときに注意を要するメサドン

世界の各国ではすでに広く使われていて、日本でも昨年3月から使えるようになった新規のオピオイドがメサドン。ほかの強オピオイド(モルヒネ、フェンタニル、オキシコドンなど)では効かなくなったステップ3(中等度から強度)の痛みに有効とされている。

「WHOのラダーはステップ3までしかありませんが、その上の、さらに取れない痛みに対して使われるのがメサドンです。痛み止めの効果としてはモルヒネとほぼ同等といわれていますが、モルヒネでどうしても痛みが取れなかった患者さんにメサドンを使って、長期間それで痛みが落ち着いた例があります」

薬物は肝臓で代謝されて腎臓で排泄されるが、代謝産物に薬理活性があると腎機能が低下している人では蓄積して副作用が出やすくなる。その点、メサドンには活性代謝物が存在しないので腎機能が低下している人にも有効といわれている。

メサドン=商品名メサペイン

処方には事前の講習受講が必要

ほかのオピオイドと比べて非常に低価格であるのも利点で、ほかのオピオイドの10分の1以下といわれている。

「問題点としては、体内に入ったとき血中濃度に個人差があるので先が読みにくく、実際に使ってみないとどの程度の効果か判断がしにくいと言われています。このため、ほかの薬からメサドンに替える際はとくに慎重さが求められます」

副作用で多いのはほかのオピオイドと同様に眠気と吐き気、それに便秘。注意したい副作用に呼吸数が減少してしまう呼吸抑制、不整脈の一種であるQT延長症候群がある。

「このため、投与する際は心電図(ECG)のチェックが欠かせないので、外来で簡単に処方できる薬ではありません」と大坂さん。

厚労省もメサドン承認の条件として、リスクに精通した医師が処方し、薬局で調剤する場合は当該医師・医療機関を確認した上で調剤することを求めており、処方できる医師は発売元の製薬会社が提供する講習の受講が必要となっている。

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