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- 山崎多賀子が聞く『快適に暮らすヒント』
がんサバイバーが専門家に聞いてきました!
――美容ジャーナリスト山崎多賀子の「キレイ塾」
がんになっても快適に暮らすヒント Vol.3 ついに〝アピアランス(外見)ケアの手引き〟発刊!
少し前まで、「がん治療で起こる外見の副作用は仕方がない」と思われていました。でも、患者は治療中も社会の一員として過ごしている。「脱毛したり、肌や爪がひどく荒れるのも仕方がない」=「家でおとなしくしていなさい」と言われているのも同然でした。
そこで多くの患者は自分で情報を入手し、外見の工夫をして、「普通」に戻るための対策を講じてきたわけですが……。2013年、国立がん研究センターにアピアランス支援センターの開設をきっかけに、がん患者のアピアランス(外見)ケアに医療者も関心をもつようになりました。そしてセンター長の野澤桂子さんを中心にこの7月、『がん患者に対するアピアランスケアの手引き』が、医療者向けに発刊。ガイドラインに準ずる出版物の登場に、大きな時代の変化を感じます。
山崎 今回、医療者を対象とした「アピアランスケアの手引き」が発売になりました。アピアランス支援センターを立ち上げた野澤さんの、1つの大きな目標でもあったわけですが、そもそもなぜ、医療者に向けての手引きを作られたのでしょう。
野澤 私が国立がん研究センターで病院スタッフと一緒に外見に関連する取り組みを始めたのが2005年です。2007年には「美容相談室」という小さな部屋ができて、短大に勤務しながらがん患者さんのアピアランスケアに取り組みました。
当時からがん患者さんの外見ケアに関する情報は、巷にたくさん流れていましたので、まずはそれらの情報に関して実験データなど、根拠を調べようと情報発信者へ問い合わせたり、文献を調べてみたのですが……。多くの事柄にエビデンス(科学的根拠)がないことがわかったのです。
山崎 がん患者の外見ケアに、明確な根拠があるものは少ないかもしれません。
野澤 そうですね。外見ケアは命にかかわる分野ではありませんから、根拠がなくても気持ちいい、楽しいというのならかまいません。ただ、患者さんに聴いてみると、治療中はこうしなければいけないという情報に振り回されて、普段やらないことをやらされて苦痛に感じているという訴えが多かったのです。患者さんが困っているのなら、現状を整理しなければいけないなと思いました。
頭皮をいたわるヘアケア法を守るあまり
洗髪がストレスになってしまう人も
山崎 具体的にはどのようなことに困っていたのでしょうか?
野澤 例えば、「低刺激シャンプーをよく泡立てて優しく洗いましょう」と、病院に置いてあったメーカーさんのパンフレットを読んだ患者さんが、肌に優しいといわれるノンシリコンシャンプーを買い、頭皮に優しくと、バケツで泡立てて頭を突っ込んで振り洗いをしたら、脱毛中の髪が絡まって大変だったとか。
山崎 ああ、ノンシリコンシャンプーを使ったことがある人はわかると思いますが、髪がキシキシするので、脱毛中は抜ける髪も一緒に絡まってしまいそう。それよりサラサラに滑りよく仕上がるほうが、脱毛中は扱いやすいですね。
野澤 そうですね。ほかにも「朝シャンは頭皮によくないから髪は夜洗って、雑菌を繁殖させないためにドライヤーで乾かして、しかも頭皮のために低温ドライヤーを使って」と書かれていたけれど、乾かすのに時間がかかるし、眠いし寒いし、髪を洗うのがストレスですと訴える方もいました。
医療者が整容法をアドバイスするなら
エビデンスがなくてはならない
山崎 つまり、健康な人がより美しくなるための情報が、そのままがん患者に当てはめられていると。患者は病院に置いてあるパンフレットの情報なら正しいと思いますからね。
野澤 そこが問題です。医療者も患者さんが困っているのはわかっていて、でも整容の専門家ではないから、何かのパンフレットに書かれてある情報を、根拠がないとは思わず患者さんにそのまま伝えている現状もありました。
ただ、化粧品店でアドバイスするのとは、わけが違う。医療者が患者さんに、マイルドな泡を立てて優しく洗いましょう、と指導したら、患者さんは具合が悪くてもやりますよね。そこまでしてやらなければいけないことなのでしょうか。それほどに医療者の言葉は患者さんにとって重いのです。医療者がわざわざ患者さんに負担をかける助言をするのであれば、その負担に値するエビデンスがなくてはならない。不利益があってはいけないのです。
山崎 それで、今回の手引きを医療者に向けて作られたのですね。どんな反響がありましたか?
野澤 患者さんから整容について質問を受けたときに、「私は専門家ではないけれど、ここにこう書いてあるよ」と言えるのがうれしい、とか、「手引きがあると安心して答えられる」というような声をたくさんいただいています。アピアランスに関するエビデンスがほとんどないので、これまでは聞かれても答える材料がなかったと。エビデンスがあるのかないのかもわからない状況のなか、まことしやかな情報が独り歩きしている分野でしたから。
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