編集部の本棚 2017/1Q
幸せながん患者 幸福と不幸の分かれ道を、あなたはどう選びますか?
著者:森山紀之 発行:講談社 1,300円(税別)
今や2人に1人ががんに罹る時代。がんになることは特別なことではなくなった。ただ患者さんの中には、不安に苛(さいな)まれる人がいる一方で、いきいきと、がん患者としての生活を送っている人もいる。その違いはどこにあるのか? 長年がん医療に携わってきた森山紀之医師から見た、幸と不幸の分かれ道が、本書では記されている。
森山氏は、国立がん研究センターなどで40年以上にわたり、がん医療に従事。これまで出会った患者さんは1,000人以上に及ぶ。著書では、こうした数多くの患者さんの中から、がんになっても、前向きな人生を送る人を紹介した上で、がんである自分をいかに受け入れ、向き合えるかが、その後の人生を輝かせるかどうかの分岐点になると指摘する。
とくに納得のいく治療法を選択できるかどうかは、患者さんにとっては重要なポイント。森山氏は「最適な治療は価値観や生き方が決める」と本書の中で綴る。自身の病状を知り、人生の優先順位を自覚することで、その人に適した、〝納得した治療法〟を選択できる。それが最終的にはがんを患いながらも、いきいきとした生活を送れることに繋がる、とする。
もちろん、誰しも病気になどなりたくない。でも、病気になったからといって、そこで人生が終わってしまうわけでもない。その先の人生を前向きに生きるために――。本書がその道標となることを期待したい。(白)
いま、希望を語ろう 末期がんの若き医師が家族と見つけた「生きる意味」
著者:ポール・カラニシ 訳:田中 文 発行:早川書房 1,500円(税別)
2014年1月、「ニューヨーク・タイムズ」紙に「私にはあとどれくらいの時間が残されているのだろう」と題したエッセイが掲載された。執筆したのは、米スタンフォード大学脳神経外科医のポール・カルニシ氏(36歳)。彼は、末期の肺がんに侵されていた――。
本書は、カラニシ氏が自らの病、家族、仕事について綴った、命の記録集だ。残念ながら、カラニシ氏は本書を完成させる前にこの世を去ってしまう。ただ、自らの病を受け入れ、突如突きつけられた〝死〟というものに、目をそらさず誠実に向き合う姿は、こちら側の心を揺さ振るものがある。
残された時間がわからない不確定な状況の中、一時は無気力に陥った著者だが、自らアイデンティティを作り、希望を見出しながら生きることに集中しようと決意する。痛みと闘いながら、脳神経外科医として手術をこなし、妻と話し合って子どもを持つことを決める。がんが進行して手術ができなくなると、今度は本書の執筆に全力投球した。
死にゆく過程をまじまじと綴った本書。翻って、それは読む者への生き方を問う。(白)