16歳で急性リンパ性白血病(ALL)と診断され、壮絶な抗がん薬治療を受けたタレント・友寄蓮さん(22歳) 「過去は変えられなくても、未来は自分で作れる気がします」
1995年3月、東京都生まれ。高校2年生のときに急性リンパ性白血病(ALL)と診断され、1年4カ月にわたって壮絶な抗がん薬治療を受ける。退院後は、舞台を中心に活躍。芸能活動の傍ら、現在自らの闘病経験を活かし、病院内で療養中の子どもたちに遊びの時間を提供するなど、ボランティア活動も行っている
2014年秋、松方弘樹さん主演の舞台「友情~秋桜のバラード」に、白血病治療を終えたばかりの19歳の女優、友寄蓮さんが立っていた。奇しくも「友情」は、白血病をテーマにした物語。3カ月に及ぶこの舞台をやり切ったとき、彼女には1つの覚悟が生まれた。白血病を克服して生きていく自分の姿をたくさんの人に見てもらおう、という覚悟が――。
16歳の秋に始まった
現在22歳の友寄さんの体調に異変が起きたのは16歳、高校2年生の秋だった。
「咳(せき)と微熱が続きました。内科に2カ所行きましたが、どちらの診断も〝風邪〟。でも処方された薬を飲んでも全然治らなくて。そうこうするうちに、動悸と息切れがひどくなって、毎日普通に歩いていた道が歩けなくなり、階段も上れなくなりました」
このころには、顔色は常に白く、授業中だけでなくテスト中ですら眠ってしまうようになった。さらに、ちょっと触れただけで手足にあざができるようになり、気がつくとあざだらけ。どうしたら良いかわからず、幼いころに通っていた小児科の病院を訪ねた。彼女の顔色を見た医師は、その場で血液検査をし、友寄さんの母親に、すぐに大病院へ行くよう促した。
2011年11月、紹介状を持って武蔵野赤十字病院へ。骨髄検査の結果は、芽球(白血病細胞)33%(20%以上が急性白血病)。「急性リンパ性白血病(Acute Lymphocytic Leukemia:ALL)」と宣告された。
「頭が真っ白になりました。でも、体調がこんなに悪いのに、ただの風邪と言われて不安な状態が続いていたので、やっと理由がわかってホッとしたのを覚えています」
白血病とは、血液がんの一種で、骨髄中の造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)が赤血球や白血球、血小板といった血液細胞に分化する過程で染色体に異常が起き、がん化する病。造血幹細胞から分化するどの段階でがん化したかで病名が変わり、対処法も違う。
「急性リンパ性白血病」とは、造血幹細胞が白血球の一種であるリンパ球に成長していく過程の段階でがん化が起こったもの。異常に増えたがん化した細胞(白血病細胞)で骨髄が埋め尽くされて、正常な血液細胞が造れなくなり、その結果、動悸や息切れ、皮下出血、さらには感染症に罹りやすくなるなど、様々な症状が現れる。かつ、小児に多いのも特徴だという。
治療の中心は化学療法。ただし小児の場合、成人よりも抗がん薬の投与量が多く、治療期間も長くなる。彼女は発症当時16歳。微妙な年齢のため治療方針の決定には少し時間を要したが、最終的に強い抗がん薬を長期間投与して徹底的にがん細胞を叩くという小児の治療方針が適用されることになった。
診断確定後、即入院。2011年11月、抗がん薬治療が始まった。2013年3月まで、1年4カ月に及ぶ壮絶な闘病生活が続くことになる。
副作用に苦しんだ日々
治療は抗がん薬による化学療法。まず強力な化学療法を行って白血病細胞を減らす「寛解(かんかい)導入療法」が始まった。白血病における完全寛解(CR)とは、骨髄中の白血病細胞の割合を5%以下に減らすことで、白血病細胞がほとんど無くなった状態に持っていくことを指す。友寄さんの場合、まずは*オンコビン、*エンドキサン、*ロイナーゼなど数種類の抗がん薬が投与され、2012年1月には順調に完全寛解を迎えた。
とはいえ、白血病細胞が完全になくなったわけではない。本当に大変なのは、実はここからだった。体中に潜んでいる白血病細胞を徹底的に叩くため、抗がん薬治療の種類を変えて、化学療法(「地固め療法」)を繰り返し行うのだ。
実は1年4カ月間に及ぶ病院での抗がん薬治療中、ほぼ全期間を通して、友寄さんはひどい副作用に苦しみ続けた。自力で起き上がることもできなくなり、車椅子生活の日々。「こんなに副作用が出る子は初めてだ……」と、担当医が頭を抱えるほどだったという。
「1番つらかったのは口内炎でした。口の中が口内炎で埋め尽くされて腫れ上がり、口が開けられなくなりました。黄色い膿が出続けて、横になって眠ると膿が喉に詰まってしまうので、夜も横になることができなくて。痛みも凄かったので強い鎮痛薬を投与してもらっていましたが、それでも痛くて眠れませんでした。それから、鼻出血もつらかったです。鼻の奥が切れたことがあって、両方の鼻の穴から水道水のように血が流れて、血小板を輸血しながらの止血でしたが、結局8時間近く止まらなくて」
他にも、40度の高熱、帯状疱疹(たいじょうほうしん)、脱毛、体の浮腫みなど、ありとあらゆる副作用が、友寄さんを襲った。脱毛や浮腫みなど容赦なく外見に影響する副作用も、思春期の女の子には耐え難かったに違いない。
「ムーンフェイス(顔の浮腫み)で、顔が何倍にもなりました。髪の毛も中途半端に抜けるのがつらかった。いっそツルツルにしたかったけど、頭に刃物をあてると出血するからできなくて……」
変わっていく自身の姿を目の当たりにしながら、なすすべない毎日はどれほど切なかっただろう。
「どうして私だけこんな思いをしなきゃならないの……といつも思っていました。いつしかお見舞いに来てくれる友達にも心を閉ざし、連絡も取らなくなっていきました」
やり場のない怒りと苛立ちを、母親にぶつけるしかなかった友寄さん。
「どうして健康に産んでくれなかったの!」
自らの口から出たこの言葉を、友寄さんは一生忘れない。それでも母は、涙も見せず、優しく寄り添ってくれていた。陰でどれほど泣いていたのだろうと思うと、今でも胸が痛むそうだ。
*オンコビン=一般名ビンクリスチン *エンドキサン=一般名シクロホスファミド *ロイナーゼ=一般名アスパラギナーゼ
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