待望の新薬リムパーザ、日本でも承認・販売! 新薬登場で再発卵巣がんに長期生存の希望が見えてきた
卵巣がんに、新たな分子標的薬リムパーザが承認された。がん細胞のDNA修復機構を壊し、がん細胞自体が死に至るよう導くという機序(メカニズム)を持つ。今年(2018年)4月に発売開始されて現時点で4カ月。リムパーザのメカニズムと可能性、そして、副作用の出方や臨床的な手応えを聞いてみた。
進行がんで見つかることが多い卵巣がん
卵巣がんは、発見された時点で約半分は病期(ステージ)がⅢ期かⅣ期に進行している。卵巣は骨盤の奥深くにあるため、異変があっても自覚症状が出にくい。かつ、有用な検診方法がなく、早期発見が難しいのだ。
対称的なのが子宮頸がん。HPV(ヒトパピローマウイルス)と連動して長い時間をかけてがんになっていく子宮頸がんは、1年もしくは2年に1度の検診(細胞診)を受けていれば早期発見が可能であり、検診が推奨されている。
ところが卵巣がんの場合、たとえ1年に1回の頻度で超音波(エコー)検査を受けて卵巣の状態を確認していても、がんが見つかったときには既にⅢ期だった、というケースが数多くあるというのだ。
「毎年検診を受けても早期発見できるとは限らないという意味で、卵巣がんは検診向きでないのです」と言及するのは、がん研有明病院婦人科部長の竹島信宏さん。とはいえ、Ⅰ期、Ⅱ期で発見される卵巣がんもある。その違いは何だろう。
「卵巣がんには、腹膜に散りやすいタイプと、長く卵巣の袋の中に留まっているタイプがあります。腫瘍が大きくなっていても卵巣内に留まってさえいればⅠ期。反対に、腫瘍が小さくても、あっという間に卵巣を飛び出し、骨盤内から、さらには腹腔内まで飛び散ってしまう例もあるのです。この散りやすいタイプが曲者(くせもの)です」
卵巣内にがんが留まっているⅠ期(早期)、または、卵巣からは飛び出してしまったものの骨盤内で留まっているⅡ期までならば、手術で取り切ることがほぼ可能だそうだ。ところが、骨盤内を超えて腹腔にまでがんが飛び散ってしまった場合、手術では切除し切れない。この状態がⅢ期で、Ⅲ期以降を進行卵巣がんという。
再発からが、本格的なスタート!
進行卵巣がんに効果を表すのがプラチナ系抗がん薬による化学療法。術後(もしくは術前)の初回治療として、まずプラチナ系抗がん薬*パラプラチンとタキサン系抗がん薬*タキソールを併用したTC療法が行われる(図1)。
TC療法は進行卵巣がんに非常に有効で、かなりの割合で目に見えるがん細胞がいったん消える。ところが、その後、必ずと言っていいほどの高い確率で再発してしまうのだという。
誤解を恐れずに言うなら、再発して落ち込んでいる場合ではない。〝再発してからが進行卵巣がん治療の本格的なスタート〟と捉えてほしい。
ここで大切なのは、「再発までの期間」。まず、初回治療で目に見えるがんがなくなってから再発するまでの期間を、12カ月以上、6~12カ月、6カ月以内に分ける。これは、プラチナ系抗がん薬が、がん細胞を抑え込んでいた期間を表す。つまり、プラチナ系抗がん薬がその卵巣がんにどのくらい効果があるかを示す指標になるのだ。
12カ月以上は「プラチナ感受性」とされ、プラチナ系抗がん薬が有効であるということ。6~12カ月は「プラチナ部分感受性」、6カ月以内は「プラチナ抵抗性」と分類し、大きく分けると、6カ月以上を「プラチナ感受性」と括(くく)る。
プラチナ感受性ならば、再発時もプラチナ系抗がん薬が有効と考えられるので、基本的にはTC療法を行う。この際、タキソールの代わりに*ジェムザールや*ドキシルが用いられることもある。プラチナ抵抗性の場合は、これ以上プラチナ系抗がん薬は効かないと予測され、ジェムザール、*ハイカムチン、*イリノテカンといった他種の抗がん薬を単剤で試していく。その治療方針に今も変わりはない。ただ、今年(2018年)4月、プラチナ感受性の再発卵巣がんに、分子標的薬*リムパーザという新たな選択肢が登場したのである。
リムパーザのメカニズムとは
リムパーザとは、どのようなメカニズムを持つ薬なのだろう。それを知るために、まずは卵巣がん細胞について触れておこう。
「日々、人間が生活していると、紫外線や化学物質によって細胞内の遺伝子伝達物質であるDNAに傷がつきます。正常な細胞にはDNAを修復する仕組みが2つ備わっていて、DNAが傷つくたびに、その2つの仕組みを使って元の正常なDNAに修復し、細胞は健康に生き続けます。ところが、卵巣がん細胞においては、DNAを修復する仕組みのうち1つが壊れていることが多く、その場合、残ったもう一方の仕組みだけで傷ついたDNAを修復して生き残り、増殖し続けているのです」と竹島さんは説明する(図2)。
この2つの仕組みがどちらか一方でも働いていれば、傷ついた細胞は修復されて生き続けるが、2つとも壊れた場合は、その細胞は死に至る(アポトーシス)。2つの仕組みとは「相同組み換え修復機構」と「塩基除去修復機構」。そして、卵巣がん細胞において壊れていることが多いのは「相同組み換え修復機構」だそうだ。
そもそも、がん細胞は正常な細胞より格段に速いスピードで無秩序な増殖を繰り返し、正常細胞を傷害して広がっていく。できることならば、がん細胞が自身のDNAを修復できなくなって細胞死に至れば万々歳なのだ。しかし残念なことに、1つ残っている「塩基除去修復機構」によって、がん細胞は修復されて生き続け、増殖し続けているわけだ。
そこに登場するのが、新薬リムパーザである。リムパーザは、DNA修復の主要酵素であるポリ(アデノシン5’ニリン酸リボース)ポリメラーゼ(PARP)を阻害する分子標的薬。言い換えると、「塩基除去修復機構」を阻害する分子標的薬である。
つまり、DNA修復の仕組みの1つである「相同組み換え修復機構」が壊れている細胞にリムパーザが作用して「塩基除去修復機構」を阻害すれば、理論的には、その細胞はDNAを修復する仕組みがなくなり、細胞死に至ることになる(図3)。
プラチナ感受性とはどのような状態か
リムパーザが適応になるのは、「プラチナ感受性の再発卵巣がん」である。初回治療でプラチナ系抗がん薬の化学療法を受けてがんが消え、その後、再発するまでの期間が6カ月以上空いていたら「プラチナ感受性再発」となる。そこに、さらにプラチナ系抗がん薬を投与し、奏効(もしくは部分奏効)したら、リムパーザの出番となるわけだ。つまりリムパーザは、プラチナ系抗がん薬が効いているまさにその瞬間に使って、「塩基除去修復機構」を壊すことで、がん細胞を細胞死に導く。
と、ここまでの理論で考えると、「プラチナ感受性=相同組み換え修復機構が壊れている状態」と結びつけたくなる。しかし、がん細胞のメカニズムはそんなに単純ではないらしい。もし、単純に「プラチナ感受性=相同組み換え修復機構が壊れている状態」ならば、プラチナ感受性再発の卵巣がんにリムパーザを投与すれば、がん細胞は皆、消滅してしまうはず。しかし、そうはならない。同じようにプラチナ感受性再発、かつ、その後のプラチナ系抗がん薬投与に奏効を見せている状態でリムパーザを服用しても、その反応は千差万別だというのだ。
数カ月でさらなる再発をする人もいれば、長期間、再発を免れる人もいる。中には、抗がん薬だけでは考えられないほど長期にわたって奏効し、次の再発までの期間を何年もにわたって伸ばすことができる人がいるという。そうした患者をスーパーリスポンダーと呼ぶ。
実際、リムパーザを投与した患者の中には、スーパーリスポンダーが存在するそうだ。欧州で行われた265人を対象にした大規模臨床試験(study19)によると、プラチナ感受性再発の後、再度プラチナ系抗がん薬が奏効した人に対してリムパーザを投与したところ、その中の約1割が6年以上増悪せず再発を長期抑制した、との結果が出た。
これは抗がん薬投与だけでは考えられない結果だった。そもそも卵巣がんの5年生存率は40%ほどと低く、進行卵巣がんに至っては、再発までの期間は数カ月というのがほとんどだ。その中にあって、たとえ1割といえども、6年以上再発を抑えたというのは、驚異的な数字なのだ。
6年とまではいかずとも、抗がん薬投与だけなら1年以内の再発が多い中、3年、4年と再発しない期間を伸ばせるなら、リムパーザによる維持療法の価値は高いと言えるだろう。さらに、竹島さんは次のように言及する。
「リムパーザを投与して3年で再発をしたとしたら、そこで振り出しに戻って、またプラチナ感受性再発として治療を開始すればいいのです。そのとき、さらにリムパーザを使うことは難しいかもしれませんが、少なくとも再発までの期間が1年以上空いているのですから、プラチナ系抗がん薬が効く可能性は十分あるでしょう」
つまり、「プラチナ系抗がん薬が効くプラチナ感受性という状態の卵巣がん細胞は、程度の差はあれ、相同組み換え修復機構が何かしら損傷を受けている」のは間違いないと考えていいようだ。損傷レベルの違いが、リムパーザの効き方の違いとなって現れるということだろう。
*パラプラチン=一般名カルボプラチン *タキソール=一般名パクリタキセル *ジェムザール=一般名ゲムシタビン *ドキシル=一般名ドキソルビシン塩酸塩 *ハイカムチン=一般名ノギテカン *イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン *リムパーザ=一般名オラパリブ
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