第2相試験の1年生存率は約8割。保険承認に向け、第3相試験もスタート 腹腔内に抗がん剤を直接注入!胃がん腹膜播種の新治療はここまで進んだ
研究に注力する
石神浩徳さん
これまで有効な治療法が確立されていなかった胃がんの腹膜播種だが、腹腔内に抗がん剤を直接注入する新たな治療は、以前にもレポートした。今年10月から始まる予定の、保険で承認されるために必要とされる第3相試験に大きな期待が集まっている。
抗がん剤の直接投与で治療効果が高まる
[腹腔内投与の方法]
胃がんが進行すると、「腹膜播種」を引き起こすことがある。がんが胃壁の深くに入り込み、外側の膜まで突き破ると、がん細胞が腹腔内にこぼれ落ちる。このがん細胞が腹腔を覆っている腹膜に付着し、育ってしまうのだ。種を播いたように広がるので、腹膜播種と呼ばれる。転移の一種だが、胃がんで起こる転移では最も多く、治療が困難な状態として知られている。
この腹膜播種に対する新しい抗がん剤治療が開発され、臨床試験が進められてきた。TS-1(*)の内服、パクリタキセル(一般名)の点滴による静脈投与、パクリタキセルの腹腔内投与という3つを組み合わせた治療法である。
この治療を行うにあたっては、パクリタキセルを腹腔内に投与するため、薬剤を注入するためのポートという器具を腹部の皮下に植え込み、腹腔内にカテーテルを留置する必要がある。皮膚の上からポートに針を刺し、ここから点滴する。
この治療法の研究を進めてきた東京大学外来化学療法部特任講師の石神浩徳さんは、こう説明する。
「根治手術ができない進行胃がんに対しては、TS-1とシスプラチン(一般名)の併用療法が標準治療とされています。リンパ節や肝臓、腹膜などに転移がある患者さんを対象にした臨床試験で、TS-1単独療法より優れた成績が確認されたためです。腹膜播種の患者さんに限った治療成績は、明らかになっていませんが、腹膜播種のある患者さんにも、一般的にはこの治療が行われています。腹膜播種に対しては、抗がん剤を腹腔内に直接投与することで、もっと効果を高められるのではないかと考え、TS-1の内服、パクリタキセルの静脈投与、パクリタキセルの腹腔内投与という3つを組み合わせた治療法を始めました」
パクリタキセルの腹腔内投与は、欧米では卵巣がんの腹膜播種に対してはすでに行われている。抗がん剤は濃度が高いほど治療効果も高いが、点滴で静脈内に投与する場合、腹腔内の濃度は十分には上がらない。パクリタキセルの腹腔内投与では、腹腔内の濃度は静脈投与した場合の1,000倍以上になる。パクリタキセルは分子量が大きく、水に溶けにくいため、腹膜から吸収されにくい。腹腔内に長くとどまるので、治療効果が高くなると考えられている。
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
臨床試験で良好な結果が出ている
これまでに東京大学において、安全性を調べる第1相試験、主に有効性を調べる第2相試験が行われた。06~07年の第1相試験では、安全性が確認され、推奨される薬の投与量が決定された。07~09年の第2相試験では、1年生存率が78パーセントという優れた成績を示し、これにより高度医療(*)に認定されている。
胃がんに対するパクリタキセルの腹腔内投与は、保険診療として認められていない。そのため、病院が腹腔内投与分の費用を負担するか、患者さんがすべての医療費を全額負担するかしか、実施する方法はなかった。
しかし、高度医療に認定されたことで、東大病院ではパクリタキセルの腹腔内投与だけは自己負担、他の部分は保険診療として治療を受けられるようになった。
09年12月からは、高度医療制度下で再び第2相試験が行われた。
「肉眼的な腹膜播種がある症例の1年生存率が約80パーセントという、前回の第2相試験とほぼ同等の結果が出ました。白血球減少や好中球減少といった副 作用についてもほぼ同様でした」
このように高度医療制度下での試験でも良好な成績が得られたことで、臨床試験は次のステップに進むことになった。
*高度医療=保険診療との併用が認められていない先進医療技術について、国が一定要件のもとで保険診療との併用を認めた技術
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