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PETがん検診の現状
「PETがん検診」への支持は弱まっていた
すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。
画像検査PET(陽電子放射断層撮影)でのがん検診は当初、「これで身体全体のがんの存在が一挙にわかる新手法」という触れ込みで各方面から歓迎されました。その後、手放しの賞賛は静かになり、一方で批判的な声も聞かれるようになってきました。実際、現状はどうなのでしょうか。PETがん検診の有効性について、調べてみました。
PET検査記事を巡る私の印象
2006年3月、読売新聞が「PETがん検診過信禁物」というタイトルの記事を載せました。
国立がん研究センターの調査に基づく記事と述べ、内容は「いろいろな方法でがんを見つけた150人中、PETで見つかったのはたった23人(15パーセント)。とくに胃がんは見つかった22人中1人(4パーセント)だった。PETでは『小さながんを見つけやすい』と言われてきたが、早期がんでは他の検査に比べ、検出率が低かった」というものです。
取材を受けたがんセンターが、「発表の意図を曲げられた」として、がんセンターの見解を数日後、自身のホームページ(HP)に発表したようです。しかし、この反論自体はすでに削除されていて読めません。ただしそれを引用したものがいくつかあり、原文通りではないとしても大筋は読めます。
たとえば、「元気がいいね♪ 健康管理士のココロとカラダと豊さの健康講座」や「情報誌『ストレイ・ドッグ』(山岡俊介取材メモ) 国立がん研究センターVS読売新聞 がん早期発見のPET検査記事を巡って」などのHPに載っています。
それらのHPによると、がんセンターの見解内容は、「事前に記事を見せてもらうと約束していたのに見せなかった」「内部調査と、秘匿していたデータのような取り上げ方をしている」などです。また、この議論には補足説明もいろいろあり、たとえば医療法人聖授会OCATクリニックや、村上康二さん(獨協医科大学病院PETセンター長)などです。
これらの記事を読んだ私(諏訪)は、「読売新聞の記事に勇み足部分もありそうだが、反論は検査の感度や統計処理の母数云々など数値処理の問題にこだわって説得力がない。『原稿を読ませろ』という要求は検閲と解釈できて不当だ。反論はかえって新聞の指摘を強化する面もありそう」との印象を受けました。
PET検査には、得意不得意のがんがある
明確に判明したのは、「検診でがんを探すのにPETを使おう」という考え方に大幅な疑義が出され、支持が弱まっている点です。
少なくとも「身体中のすべてのがんを探し出す」という使い方は、ほぼ完全に否定されています。
この点を学術的な内容も含めてしっかり解説しているものの1つは、「PETがん検診の光と影」というタイトル記事の西村恒彦さん(京都府立医科大学放射線医学教室)のもので、「PET検査ががんの早期発見やQOL向上、死亡率減少効果をもたらしたというエビデンスは現在のところほとんど存在していない」と断言しています。
さらに別のHPでは「がん別に見るPET検診の有用性」というタイトルで、12のグループのがんに対して、PET検査が有用と考えられるがんとして甲状腺がん、肺がん、食道がん、子宮・卵巣がん、悪性リンパ腫を挙げ、他のがん(脳腫瘍、胃・大腸がん、肝がん、膵がん、乳がん、前立腺がん、腎臓がん・膀胱がんなど)はPETでは発見しにくいか、他にもっと有用な確立した方法があるのでPETを採用する理由がないとしています。
「PET検診の適応と限界」と題した国立がん研究センターがん予防・検診研究センターの寺内隆司さんらの記事は、8編の記事中の一部(第2編)です。
それによると、「現在、PETがん検診に対しては賛否両論がある」としたうえで、PETがん検診の特長のほか、「早期発見に威力を発揮した多くの事例は、エビデンスにはなり得ない」点、検査にコストがかかる点、放射線曝露(*)を伴う点などを欠点としてあげています。
*曝露=さらされること
「がん検診」という考え方自体への疑問
今回の探索では、「がん検診」という考え方自体への疑問を述べた文章に遭遇しました。
PETとの関連も含めて、そちらについても検討してみたいと思います。
たとえば、前述の西村さんはPET検査の効果について「エビデンスは現在のところほとんど存在していない」と断言したすぐ後に「現在行われている一般のがん検診でさえ十分なエビデンスなしに行われているものも多く、今後『検診業務の見直し』が迫られている。一部のがんに関しては厚生労働省が研究班を組織し、評価に基づく有効性の判定を行っている」と述べています。また聖授会HPの文章でも、「『がんの発見率は検診の有効性の評価としての指標として妥当か』という問題もあります。がんにはいろいろな種類があります。極めて早期のがんや進行の遅いがん等、全てのがんをひっくるめて『がんの発見率』として比較するのは乱暴」(文章を一部略しました)と書かれています。
以前、本連載「PSAのレベルと前立腺がんの診断と予測」記事で、前立腺がんの腫瘍マーカーとして確率しているPSA(前立腺特異抗原)検査を「私は受けない」と言うボストンの医師バリー氏の意見や、それと類似の論理を厚労省が表明して、日本泌尿器科学会と論争している事実を紹介しました。
また、「内視鏡検査と事故」記事では、胃がんや大腸がんの検査に適用される内視鏡検査に伴う危険も紹介しました。
それやこれやを考えると「検診をしっかり受けるほどがんが発見できて寿命が延びる」という論理自体が疑問で、まして、その証拠はありません。
PET検診自体には、当初考えられたほどの効用はないようです。
しかしながら、お金と暇の有り余っている高齢者が検診のお蔭で見知らぬ土地を訪れ、新しい環境で温泉に入り、ゴルフを楽しみ、「ついでに検診を受ける」意味はあるでしょう。
PET検診は、放射線障害を別として「検診で健康を損なう」要素は一応無視できます。
それで、「他の方法では見つかりにくいがんが見つかることも少しだけある」なら結構かもしれません。