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多発性骨髄腫の進行を抑えながら、QOLの高い生活をめざす
多発性骨髄腫とうまく長くつき合う方法

監修:小杉浩史 大垣市民病院血液内科医長
取材:「がんサポート」編集部
発行:2010年3月
更新:2019年7月

  

小杉浩史さん
大垣市民病院血液内科医長の
小杉浩史さん

「多発性骨髄腫」と診断されても慌てる必要はない。
正しい治療を受ければ、高い確率で寛解(がん細胞が血液中に見られなくなること)を得ることができる。
また多発性骨髄腫に特徴的な骨病変の症状をうまくコントロールしていくことで、QOL(生活の質)の高い生活を送ることも可能になった。

白血病、リンパ腫、骨髄腫は、いわば造血器腫瘍3兄弟

がんにはさまざまな種類があるが、その中で多発性骨髄腫とはどんながんなのだろうか。大垣市民病院血液内科の小杉浩史さんはこう説明する。

「ひとことでいうと、血液のがんです。『造血器腫瘍』という言葉で総称され、主なものは白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫。この3種のがんが兄弟関係にあるといえるでしょう」

血液という体液ががんになると聞いても、ピンとこないかもしれないが、液体成分である血漿と、白血球、赤血球、血小板などの細胞成分から成り立っているのが血液。こうした細胞成分の多くは、骨髄で作られる造血幹細胞が、いろいろな形で成長・発達する(これを「分化」という)ことで、新たに生まれてくる。

「一般に、造血幹細胞が分化する初期段階でがん化すると、白血病になります。ある程度分化したあと、リンパ節で育つ細胞(リンパ系細胞)がありますが、その段階でがん化すると悪性リンパ腫になります。さらに、リンパ系細胞の中でもB細胞と呼ばれる細胞は、ウイルスなどの『外敵』に対抗するタンパク質(抗体)を作り出す形質細胞として成熟しますが、この段階でがん化すると多発性骨髄腫になります。いずれも血液のがんですが、病気のありようはかなり違います。白血病は骨髄で増え、急激に全身の血液に満ちあふれる勢いのある病気です。リンパ腫はリンパ節でがん細胞が増えるため、リンパ節が腫れたり、ほかの場所で腫瘍をつくるなど、『腫れる』ことが主となる病気です。多発性骨髄腫は白血病のように骨髄で数を増やす一方、リンパ腫のように細胞同士が集まって増殖する傾向を持ち、腫瘤形成がみられることもあります」

その結果現れる症状として、

「最も特徴的なのは骨の痛みや病的骨折などの骨病変ですが、がん細胞が増えた場所(骨髄)で骨の組織を溶かしたり、固まりを作って圧迫するからです。他に貧血、腎不全、高カルシウム血症などの症状もみられます」と小杉さんは説明する。

「当院の統計でも40パーセントくらいの患者さんが骨折や腰痛などで、整形外科医師の紹介で来院されます。また血液検査で血液中のタンパク質が高かったり、免疫グロブリン関連の数値が高くて紹介されるケースも少なくありません」

“がん”は特定の人に発症する病気ではない

多発性骨髄腫の発症年齢の中央値は66歳で、40歳未満はごく少数。高齢者に多い病気だ。

「そもそも、がんという病気は特定の人に発生するという病気ではありません。例えば平均寿命が50歳未満のような国では、あまりがんは発生しません。多くは日本のように、平均寿命が80歳というような長寿国、先進国で多く発症します。胃がん、乳がんといった「固形がん」と呼ばれるがんも、多発性骨髄腫のような血液がんも、老化によって発生する、つまり長寿を得たことによる裏返しの病気であると言えるのです。

ヒトのからだは、たった1つの受精卵細胞から始まり、60兆個の細胞でできあがっていますが、これら1つひとつの細胞が3万前後の遺伝子のセットをもっています。これら遺伝子をコピー(複製)して、細胞を再生させるときに、コピーエラーが生じて、修復や監視の機構などをすり抜けてしまうことがあります。こうした、遺伝子のいわば傷が積み重なって、重要な遺伝子の重要な部位での変異が組み合わさると、1つのがん細胞が成立するわけです。この遺伝子の変異は、高齢とともに、頻度が多くなり、また、蓄積してくると考えられています」

進行がゆっくりで薬も効く。長い期間で治療を考える

では、もし多発性骨髄腫と診断されたら、どのように向き合っていったらいいのだろうか。

「多発性骨髄腫の場合、治療によって高い確率で病状を改善できる病気です。しかも、分化の進んだ段階(高分化型)で細胞ががん化するため、進行が比較的ゆっくり。5年、10年生存率が取り上げられるように、比較的長い経過をたどります。最近は新しい治療薬も登場し、打つ手も増えてきました。ただ現時点では、何年かたつと、再発は免れません。ですから、発症して治療、再発して治療というくり返しが予想されます。長い期間で治療をどう組み立てるかが大切です」

治療の柱となるのは、抗がん剤などの薬物療法。固形がんでは、がんによる病変が小さく、最初にできた場所にとどまっているうちに、手術などで取り除くのが決め手となる。全身を巡る血液の細胞ががん化する血液がんの場合、手術などの局所療法では効果が望めないのだ。

「ですが、血液がんはみな抗がん剤が効きやすいのが特徴です。抗がん剤治療の発展に伴い、今日では初発時治療で70~80パーセントの患者さんが寛解(がん細胞が骨髄中に見られなくなること)を得られるようになりました。これは他のがんに比べて、突出しています」

[化学療法と造血幹細胞移植]
図:化学療法と造血幹細胞移植


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