「手術+化学療法」のコンビネーションで根治をめざす
大腸がんの肝転移には「治療戦略」が大切
外科学診療講師の
佐藤武郎さん
通常、転移があると、手術による治療が難しいが、大腸がんの肝転移は肝臓に留まっていることが多いため、治療の基本は手術です。しかし、手術単独の治療には限界もあり、手術+化学療法など、「手術+手術以外の治療法」を組み合わせるという治療戦略を立てることが大切です。
肝臓への転移の割合が最も高い
再発部位 | 結腸 (3,583例) | 直腸 (1,647例) | p値 |
---|---|---|---|
肝 | 7.0% | 7.3% | 統計学的有意差がない |
(252) | (121) | ||
肺 | 3.5% | 7.5% | p<0.0001 |
(126) | (124) | ||
局所 | 1.8% | 8.8% | p<0.0001 |
(64) | (145) | ||
吻合部 | 0.3% | 0.8% | p=0.052 |
(9) | (13) | ||
その他 | 3.6% | 4.2% | 統計学的有意差がない |
(130) | (69) | ||
全体 | 14.1% | 24.3% | p<0.0001 |
(506) | (400) |
出典:大腸癌治療ガイドライン医師用2009年版 大腸癌研究会編
金原出版株式会社
がんが発生した場所を「原発巣」と呼び、原発巣以外の場所に”飛び火”していくのが転移であり、転移した先で大きくなったがんのことを「転移巣」と呼びます。
大腸がんの転移には、リンパ行性転移、血行性転移、播種性転移などがあり、がん細胞が腸の壁の中にある静脈に侵入し、血液と一緒にほかの臓器に流れていって、そこで大きくなるのが血行性転移です。大腸の血液はまず肝臓に集まることから、大腸がんでは肝転移の割合が最も高く、次が肺で、さらに進むと骨や脳にも転移していきます。
がんを手術で切除しても、約17パーセントの人に再発が見つかり、そのうち肝臓への転移は約7パーセントです。
したがって、サーベイランスといって、手術をしてから少なくとも5年間は、術後の再発チェックのための定期検査が欠かせません。腫瘍マーカーとCT(コンピュータ断層撮影装置)による検査が中心で、はじめの3年間は3カ月に1回の腫瘍マーカー、6カ月に1回のCT検査を行い、3年をすぎてからは腫瘍マーカーは半年に1回、CT検査は6カ月から1年に1回行う、とされています。
○:ステージ3大腸がんに行う。ステージ1~ステージ2大腸がんでは省略してもよい
胸部の画像診断:CT検査が望ましいが、胸部単純X線検査でもよい 腹部の画像診断:CT検査が望ましいが、腹部超音波検査でもよい 出典:大腸癌治療ガイドライン医師用2009年版 大腸癌研究会編 金原出版株式会社
切除が可能なことが大腸がん肝転移の特徴
肝転移が見つかった場合の治療法ですが、大腸がんの肝転移は手術で切除することが可能といわれています。
「大腸がんの肝転移は見つかったものを手術で取ることができると、約50パーセントの人が再発しないのが特徴です。胃がん、食道がん、膵がんなど他のがん種では、転移があるとたとえ肉眼や画像上で見えているのは1個でも、他の部位に隠れた転移がたくさんあるためすべてを手術で切除できないケースが多いです。その点では、大腸がんの肝転移は転移がんの中でタチがよいといえます。もちろん、転移を起こすわけですから、がんの悪性度が低いかというと決してそんなことはないのですが、再発しても、もう1回手術で切除することが治療の選択肢として入ってくるというのは、他のがんの転移との大きな違いです」
大腸がんの肝転移では、転移した部分をすべて取ることができる、切り取っても手術後の生活を送れるだけの肝臓の予備能力が残る、手術に耐えられるだけの体力があるなどの場合は第1選択の治療法として手術が行われます。大腸がんが見つかった段階ですでに肝転移がある場合も、両方とも手術で切除可能なら、原発巣と転移巣を同時に切除します。手術の方法は、開腹手術のほか、腹腔鏡下手術を行う施設も増えています。
「腹腔鏡下手術は、傷が小さいので患者さんにとって術後の疼痛を軽減するなどの大きなメリットがあります。原発巣と転移巣の同時切除をしなければならないケースについても腹腔鏡下手術で行うことが可能で、当院でも手術例はあります。原発巣が結腸、転移が肝臓だと1度に切ろうとするとおなかを上から下まで開けなければいけないのが、腹腔鏡下手術では5センチほどの傷ですむため、術後も患者さんはとても元気でした。しかし、その一方で肝臓の手術は難しく、肝転移を腹腔鏡下手術で実施できる施設は全国でも非常に少ないです」
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