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腹腔鏡下手術が普及し、新しい化学療法も登場。進行度に応じた治療法の選択を
『大腸癌治療ガイドライン』を、今後の展望を踏まえ読み解こう!

監修:固武健二郎 栃木県立がんセンター研究所長
取材・文:半沢裕子
発行:2009年7月
更新:2013年4月

  
固武健二郎さん 栃木県立がんセンター
研究所長の
固武健二郎さん

比較的扱いやすく治癒しやすい大腸がん。手術でとれば完治、と思われがちですが、段階別に、より体に負担の少ない治療法が推奨され、また、化学療法の選択肢もぐっと増えてきました。まさに進化を続ける大腸がん治療法。もうすぐ改訂されるガイドラインの展望も含め、栃木県立がんセンター研究所長の固武健二郎さんにうかがいました。

そろそろガイドラインが改訂される予定

写真:『大腸癌治療ガイドライン』(左)と『大腸癌治療ガイドラインの解説』

『大腸癌治療ガイドライン』(左)と『大腸癌治療ガイドラインの解説』(いずれも金原出版刊)

最近は病気治療の場で、ガイドラインという言葉をよく聞くようになりました。1990年代後半、「病気の治療は『科学的根拠に基づく治療』(Evidence Based Medicine、通称EBM)であるべきだ」という考え方が世界的に高まり、各国において「エビデンス(科学的根拠)に基づいた標準治療(「この進行度なら、この治療が最も標準的」といった治療内容)が病気別に示されるようになりました。これを主に医師向けにまとめたのが、ガイドラインです。

ガイドラインという英語を辞書で引くと、「道しるべの綱」とか「計画概要」などの日本語が載っています。病気のガイドラインもまさにそういったもので、「主要な道路を示したロードマップのようなもの」といわれることもあります。

主に医師向けではありますが、「この病気のこの状態では、この治療が標準的」という情報は、当然、患者さんにとっても、たいへん重要なものです。

[国別大腸がんによる死亡率]
図:国別大腸がんによる死亡率

『ガイドラインサポートハンドブック 大腸癌 改訂版』より

そこで近年、患者さん向けにガイドラインの解説書も出版されるようになり、患者さんに解説を積極的に行う医師や医療機関も増えました。ガイドラインは患者さんが知っておきたい基礎的な情報になりつつあります。大腸がんの治療に際しても、多くの方にガイドラインを参考にしていただきたいと思います。

日本で、大腸がん治療ガイドラインを作成した大腸癌研究会「ガイドライン検討委員会」の現委員長でもある、栃木県立がんセンター研究所長の固武健二郎さんは語ります。

「どんな治療を受けるかは、(1)エビデンス(科学的根拠)、(2)国によって違う各種規制、それに加えて(3)患者さんの生活環境や体調、医療文化などの要素によっても変わってくるので、エビデンスがすべてとは言い切れません。しかし、ガイドラインとまったく違う治療を医師が選択する場合、今日、医師は患者さんに対する説明責任があると考えています。その意味では、ガイドラインが患者さんのそばにあり、参考になるのは間違いありません」

大腸がん治療ガイドラインは、2005年に初版が出版され、2009年7月に改訂される予定です。そこで、今の日本の大腸がん治療ガイドラインでは、どんな治療が「標準治療」となっているかを、固武さんに解説していただくとともに、すでに公表されている資料から、2009年版のガイドラインではどのあたりが変わるかについても、現時点でわかる範囲で見てみたいと思います。

転移した大腸がんでも、根治の可能性あり

[大腸の構造]
図:大腸の構造

まず、大腸がんの特徴と、日本の大腸がん治療の特徴について、簡単にまとめてみましょう。

大腸は小腸から続く1.5~2メートルほどの器官で、盲腸に始まり、上行結腸、横行結腸、下行結腸へとつながり、S状結腸を経て直腸へ、そして肛門へと続きます。大腸がんは近年、がんの中でも急に増えているがんで、いずれは日本人の死因の第1位になると推測されています。ただし、進行が基本的にゆっくりしているうえ、手術で根治できる可能性が高いため、比較的扱いやすいがんでもあります。固武さんは言います。

「転移とは、たとえば大腸がんなら大腸がんの細胞がリンパ節や肝臓、肺などの臓器に飛んで増えることをいいますが、大腸がんの細胞は転移した場所でも『比較的ゆっくりと増殖し、まわりに飛び散ることも少ないので、切除しやすい』という性質をもつので、根治できる可能性が少なくありません。事実、肝転移を切除した場合の5年生存率は30~50パーセントくらいです」

一方、日本の大腸がん治療のいちばんの特徴は、

「手術という治療方法の有効性が、非常に高いことですね。たとえば、リンパ節に転移がある場合、手術時にリンパ節郭清(がん細胞が転移する経路となるリンパ管とリンパ節をまわりの組織ごと切り取る手術)を行いますが、日本にはその経験と技術が蓄積しています。そのため、手術の成績が他国と比べて、非常によいのだと思います」

そのうえ、最近は化学療法(いわゆる抗がん剤治療)に新たに分子標的薬が加わり、さらに根治や延命の可能性が高くなっているとのこと。たしかに、2009年版のガイドラインにおいても、推奨される化学療法が増えている点が、最大の改訂点となっているようです。

つまり、がんの中では比較的扱いやすいうえ、治療の手段が近年、ますます増えているのが、大腸がんの全体的な状況といえます。ですから、大腸がんと診断されてもあきらめずに完治を目指す。これが大腸がんの治療に向かう患者さんの心構え、といっていいでしょう。

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