直腸がんでは、9割以上で肛門の温存が可能に
手術件数が増加中の進行大腸がんの腹腔鏡手術
一般・消化器外科准教授の
奥田準二さん
進行がんへの保険適用の拡大や学会の認定医制度などを背景に、現在、進行がんを適応とした腹腔鏡手術の件数は増加しています。
まだ検討段階ではありますが、術後の生存率についても、腹腔鏡手術は開腹手術と同等と考えられているためです。
十分に経験を積んだ専門医が手術を担当すれば、肛門の温存も可能となっています。
年間1万件急増する腹腔鏡手術
大腸は、右の下腹部から時計回りに腹部を1周して肛門に至ります。「盲腸」からはじまり、「上行結腸」「横行結腸」「下行結腸」「S状結腸」までの結腸と、「直腸」に大きく分けられます。
大腸がんがいちばんできやすいのは、「直腸」と「S状結腸」で、全体の7割を占めます。
大腸がんの腹腔鏡手術は、2002年に進行がんにも保険適用になって以降、急増しました。現在、国内の約450施設が、年間に約1万件を行っています(日本内視鏡外科学会のデータより)。
これは、大腸がんの手術全体の約4分の1を占めます。
この割合は、年々増加しています。大腸がんの腹腔鏡手術のうち、6割が進行がんの手術です。
大腸がんの腹腔鏡手術を行っている病院は増えましたが、手術数の施設間格差は非常に大きいと言えます。
腹腔鏡手術を始めた時期や、取り組み方によって差が開きます。腹腔鏡手術よりも開腹手術のほうが優れていると考える病院では、腹腔鏡手術が手術全体の数パーセントにとどまっています。
手術件数が少なければ、頻度の少ない横行結腸(9パーセント)や下行結腸(5パーセント)といった部位の経験数が非常に乏しくなってしまいます。
日本内視鏡外科学会の調査では、2006年からの2年間に、大腸がんの腹腔鏡手術で11人が死亡しています。技術に関する死因としては、縫合不全や出血などが挙げられます。
腹腔鏡手術を受ける際には、その医療機関の実績を把握しておくことが重要です。
他臓器や腹膜への転移がなければ手術の適応に
では、どのような進行大腸がんが、腹腔鏡手術の適応になるのかを説明します。
進行大腸がんで、みなさんが心配されるのは転移です。
進行大腸がんには転移の状態が、(1)動脈に沿ったリンパ節に転移し、身体の中央にがんが広がっていくもの(2)門脈や下大静脈といった血管の内部にがんが入り込み、それが血管を通って肝臓や肺に転移したもの(3)さらにひどくなり、がんが腸管を破って腸の外側の腹腔で腹膜転移をしたもの(4)がんが腸管を破って、直接、隣接する膀胱や子宮などの臓器に侵入したもの―の4種類があります。
がんを周囲の腸管・腸間膜内のリンパ節とともに一括切除すること
(2)~(4)のように、他の臓器や腹膜に転移すると、「治す手術」ができにくくなります。ですから、(1)が腹腔鏡手術の主な適応となります。大腸がんの進行度では、1~3期です。 手術では、炭酸ガスで膨らませた腹部に5つの切開創(5~12ミリ)を開け、腹腔鏡や手術器具などをお腹の中に入れます。そして、リンパ節を囲い込むようにして、リンパ節とがん周辺の腸を大きく取ると、がんを取りきることができます。
また、大腸がんでは、腸が詰まって、腸閉塞を起こすタイプが多いので、他臓器に転移をしていて、根本的に治すことができなくても、手術が必要となる場合も少なくありません。 進行大腸がんの腹腔鏡手術では、部位別に難易度が違います。S状結腸、上行結腸は比較的容易です。横行結腸になると、とくに左側の部分は、周囲に胃や膵臓、脾臓などの臓器があるため、難しくなります。そして最も難しいと言われているのが、直腸です。骨盤の中の、狭くて深いところにがんができるので、それを取るのは難しいのです。
多くの病院は、難易度の低いものから段階を踏んで、手術のできる範囲を拡げていきます。
腹腔鏡手術では、実際に臓器に触れることができないので、一部分を見ただけでお腹の中全体の構造がつかめるだけの解剖学の知識が医師に必要です。がんにつながる血管とその周囲のリンパ節をきちんと取っていくためには、腹腔鏡の操作に慣れなくてはいけません。大量に出血すれば、何も見えなくなるので、素早い対応が必要です。
ただし、カメラでは約6倍に拡大されるので、細かいものもよく見えます。その利点を生かして、性機能の神経を残しやすくなります。
たとえば直腸がんであれば、尿管などを傷つけないように気をつけながら、直腸を間膜ごと骨盤内からはがします。がんが再発しないように、残すほうの腸管の中を肛門側から洗い、がん周辺を切り取ります。同時に、中身が漏れないように、切った端は機械で閉じます。それを、3~4センチに拡げた切開創から取り出します。そして残った大腸は切り口同士を機械でつなぎ、糸で縫って補強します。切開創を閉じれば、傷跡も目立ちません。
小さな切開創の手術ですが、手順や器具の扱い方1つひとつをシステム化しないとうまくいきません。開腹手術よりも難しいと言えます。
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